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「遊ぶ2人の少女」

ピーダ・イルステズ (1911年)

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 姉妹でしょうか、2人の少女が手元を見ながら楽しそうに語り合っています。窓からの清らかな光が2人を照らし、テーブルの細い脚が長い影を落としているところを見ると、午後の静かな時間なのかもしれません。
 画家が描いているのは20世紀初頭のインテリアです。シンプルで機能的で無駄なものは取り払われています。チューリップのような形をした背もたれの椅子に全ての光が集まり、少女たちの様子を温かく優しく見守っているようです。

 この美しく幸せな世界を描いたピーダ・イルステズ(1861年2月14日-1933年4月16日)はデンマーク南部のロラン島グルボソン市出身で、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した画家です。そして同じデンマーク出身の画家、静謐な室内画で日本でも人気の高いヴィルヘルム・ハンマースホイの義兄にあたります。
 1878年からデンマーク王立美術院で5年間の研修の後、1883年にシャーロッテンボー春の展示会でデビューして以来、イタリアを初めとして世界各地を訪れ、文化省の支援でパリ万国博覧会(1889)開催中のパリへも旅行しています。ハンマースホイとはデンマーク王立美術院で出会って親しくなり、1891年、イルステズの妹イーダがハンマースホイと結婚、彼の義兄となりました。

 妹の結婚を契機に、イルステズの作品にはハンマースホイの影響が色濃く反映されるようになります。非常に似た雰囲気を持った作品も多く、その光と影の扱いにも共通したものを感じることができます。
 ただ、決定的に違うのは、ハンマースホイよりもイルステズの絵に射す光には温もりがあり、描かれる部屋には必ず人の気配があり、会話があり、優しさがあります。時には沈黙して読書する少女が描かれていても、ロウソクの光が彼女を助けていたり、部屋の扉を開けば隣の部屋には家族の存在を感じることができます。
 彼は4人の子宝に恵まれました。子供たちをモデルに描くことも多かったに違いありません。登場人物に子供の姿が多いことも、イルステズとハンマースホイの決定的な違いだったと言えます。画家自身の幸せがそのまま作品に投影されていたのでしょう。

 19世紀中ごろのデンマークではナショナリズムの高まりとともに、美術においても固有の風景や伝統的な暮らしを守る人々を描く傾向が強まりました。そんな時代背景もあり、デンマークの画家たちはささやかな日常の中にみずからのアイデンティティを求めるようになっていったのです。素朴で穏やかな人々の生活から、やがて室内画というジャンルが確立していったのは自然なことだったかもしれません。そんな室内画の温かい小宇宙で、少女たちの楽しそうな話し声はいつまでも続いています。

★★★★★★★
東京 国立西洋美術館蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎366日 絵のなかの部屋をめぐる旅
        海野 弘著 パイインターナショナル (2021-7-28出版)
  ◎ヴィルヘルム・ハマスホイ 静寂の詩人 (ToBi selection)
        萬屋健司著 東京美術 (2020-1-27出版)
  ◎ビジュアル年表で読む 西洋絵画
       イアン・ザクゼック他著  日経ナショナルジオグラフィック社 (2014-9-11出版)



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