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「読書する娘」

 ジャン・オノレ・フラゴナール (1776年)

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 大きなクッションを背に、ゆったりと座って読書中の少女の熱心さが、清らかな雰囲気を漂わせます。
 高い位置で結んだ蝶のようなリボン、花びらのような指先、柔らかそうなバラ色の頬、鮮やかなレモンイエローのドレスが、軽やかで華やかなロココを代表する画家の一人、フラゴナールならではの可愛らしさだという気がします。

 この作品は丹念に描かれているようでいて、色の置き方を子細に見ると、非常に素早い筆致で仕上げられているのがわかります。ありあまる画才を天から授かった画家ジャン・オノレ・フラゴナール(1732-1806年)の大きな特徴の一つは、この驚くほど素早く大胆な筆遣いと、対象を的確にとらえる正確無比な眼であったと言えます。彼は、肖像画ならば1時間で描き上げると豪語していました。しかし、そうした自由なタッチが美術史の中に登場するのは、実際はそれから100年も後のことなのです。
 フラゴナールは若くしてローマ賞を受賞し、イタリア留学後はアカデミーの準会員の座を手にするなど、エリートコースを順風満帆に歩んだ画家でした。しかし、王侯貴族にかわって金持ちの市民層が美術品の新たな顧客となってくると、あっさりとエリートコースを降り、ブルジョワ層の作品依頼を受けるようになります。甘く大胆なタッチで描き出されたフラゴナールの女性たちは、当時、大変な人気を博しました。彼女たちは官能的でコケティッシュで、お金持ちの寝室を飾るのにぴったりでした。フラゴナールによって、ロココのエロティックな絵画は最後の爛熟期を迎えたのです。
 そんなフラゴナールの画風も、1769年の結婚を期に変化を見せます。弟子であった同郷のマリー・アンヌと結婚した彼は、幸福な家庭の情景や愛らしい子供たちの絵を描くようになります。それは、彼が家庭人として満たされていたことを示しているのでしょう。この少女像も、そんな時期に描かれた一作であったと思われます。フラゴナールは、人の内面を透徹した視線で見つめることのできる画家でもあったのです。私室で静かに読書する少女のまわりには、穏やかで緊張感のある時間がやさしく凝縮されているようです。

 ところで、「読書する女性」という主題は18世紀の美術では比較的好まれたテーマでした。女性にも読書の習慣が徐々に広まってきたためでしょう。さらに、ロココ時代には、上流階級の女性たちの社会的進出が目立ち始めましたが、その筆頭はルイ15世の愛妾であったポンパドゥール夫人だったでしょう。モーリス・カンタン・ド・ラトゥールの手になる彼女の肖像画の背後には百科全書などの啓蒙思想家の著書が並んでおり、読書が非常に身近なものだったことを物語っています。
 本の世界に没頭する少女の凛としたシルエットからは、穏やかな中に揺るぎない情熱と永遠が立ちのぼってくるようです。

★★★★★★★
ワシントン、 ナショナル・ギャラリー蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
        小学館 (1999-12-10出版)
  ◎名画への旅〈第15巻〉/18世紀〈1〉逸楽のロココ
        大野芳材・伊藤已令・下浜晶子・越川倫明著 鈴木杜幾子・森田義之編著  講談社 (1993-06-18出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)
 



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