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「落下する花火 : 黒と金色のノクターン」

ジェームス・ホイッスラー (1875年)

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 暗い夜空に、突如喧騒の世界が広がります。それは、すべてのささやき、すべての叫び、すべての想い、すべての戸惑いを呑み込んで、精神の芯の部分を完全に麻痺させていくのです。
 この作品は、当時ホイッスラーが居住していたリンジィ・ロウの近くにあったクリモーン公園の呼び物の一つ、花火のアトラクションを描いたものです。ちょうどフィナーレのころなのでしょう、矢継ぎ早に発射された打ち上げ花火が、盛んに爆発と落下を繰り返しているのです。まさしく黒と金…そしてモスグリーンの世界…。 ノクターンというには、少々騒がしすぎる感じもしますが….。

 このアトラクションは、J・ウェルズ氏によるもので、毎晩10時半から開演され、たいへん人気がありました。花火というよりは火の粉を思わせる表現が斬新で、その沸き上がるような夢幻的な美しさと激しさには、一瞬、ホウっと溜め息がもれてしまいます。
 画面の左下に、もやっとしていますが、木立のなかの明かりが見え、それが「チャイニーズ・プラットホーム」と呼ばれた四千人収容の巨大な舞踏場の電飾であることがわかります。そして、そのやや右上方の煙のなかには、花火打ち上げ台の尖塔もかすかにみとめることができて、本当にすべてが夜気のヴェールに包まれ、幻想的に処理されています。

  しかし、1877年のグローヴナー・ギャラリー開館展に出品された際、この作品を見たJ・ラスキンは、
「公衆の面前に絵の具の壷を投げつけたような代物で200ギニーもふんだくろうとしている」
と中傷しました。このため、名誉毀損の訴訟にまで発展したことは有名ですが、この作品にみなぎる、どこか魔的な躍動感が、ラスキンにはあまりにも受け入れ難かったのかも知れません。

 1845年に開設されたクリモーン公園は、アミューズメント・パークとしては割安で、低所得者層にも圧倒的な人気でした。反面、上流階級の人々からは、風紀の良くない場所として見られていたところがあったようで、アトラクションによる夜間の騒音や、周辺の売春宿の増加に住民の苦情が集まり、77年にはとうとう閉園となってしまいます。
 しかし、ホイッスラーは、そうした歓楽地を、そして盛り場特有の人いきれを、かなり冷めた目で見つめていたのでしょうか….。この花火大会のフィナーレに、生々しい人間たちの存在は、まるでかき消されてしまったようです。

★★★★★★★
デトロイト美術研究所蔵



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