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「聖フランチェスコと彼の生涯」

 ボナヴェントゥーラ・ベルリンギエーリ (1235年)

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 アッシジの聖フランチェスコ(1181-1226年)といえば、清貧と平和と謙遜を説いた聖人としてとても馴染み深い人物です。フランチェスコと彼の修道会が果たした何よりも大きな役割は、キリスト教の民衆化でした。聖フランチェスコの語るキリストについての説教は、おそらく人々の心をとらえたことでしょう。ヨーロッパでよく見られるクリスマス・クラッペを初めて作ったのも聖フランチェスコであったと聞くと、ちょっと意外で嬉しくなってしまいます。彼は人々に愛されました。人々は聖人の生前の姿、その生涯のさまざまな出来事、奇跡を心にとどめたいと望み、聖フランチェスコを描いた絵画は数多く生み出されています。

 この作品は、聖フランチェスコを描いた最古の絵画であると言われています。中央に立つ聖人は、両手両足に聖痕を残し、前方を見つめてフランシスコ会の衣をまとい、腰帯には特徴的な三つの結び目が見てとれます。これには、清貧、童貞、服従の三つの宗教的誓願がこめられているのです。さらに、両肩近くに描かれた二人の天使は、彼が聖人であることを示すものでした。そして、よく気をつけて見ると、彼の生涯にちなんだ奇跡の物語が左右に三つずつ描かれています。

 向かって左側の一番上は、聖痕の奇跡です。1224年、フランチェスコがアルヴェルナ山に引き籠もっていた時、一つの幻を見ました。六つの翼を持ち、両腕を広げ、足をそろえて十字架の形をした熾天使が彼の前に現れたのです。聖フランチェスコ修道会の総会長をつとめた神学者ボナヴェントゥーラ(1221-74年)は、これをキリストの磔刑像としています。これを熟視するうち、聖人の体にキリストと同じ五つの聖痕が現れ、それは二年後に他界するまで消えることはなかったといいます。聖痕は、信仰に篤い者にあらわれるものと言われています。
 その下に描かれているのは、フランチェスコと鳥たちの物語です。聖人に関する最古の文献『ちいさき花』の中で語られている挿話によれば、聖人が小鳥たちに神を讃えるように説いたとき、それらはいっせいに飛び立って、空中に十字架を形づくったと言われています。野生の動物たちも、聖フランチェスコの言葉には黙って耳を傾けたのでしょう。

 この祭壇画の作者ボナヴェントゥーラ・ベルリンギエーリ(1228-43年活動)は、13世紀ルッカで活躍したイタリアの画家一家ベルリンギエーリ一族の三男で、兄弟の中で最も才能にあふれた人でした。この作品も、厳粛でありながら素朴で、聖フランチェスコ会の理念を最も端的に、清らかに表現したものの一つと言えるでしょう。生前、すでに崇敬を集めていた聖者の、おそらくはその姿も面差しもこのような人であったろう、と思わせる実在感と安らぎを感じさせる聖フランチェスコではあります。

★★★★★★★
ペッシャ(イタリア)、 サン・フランチェスコ聖堂 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎アッシジの太陽―フランチェスコの足跡を訪ねて
        助安由吉著  エイト社 (2002-11-01出版)
  ◎西洋美術館
        小学館 (1999-12-10出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)



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