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「聖ニコラウス祭」

ヤン・ステーン (1665-68年)

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 タイトルの”聖ニコラウス”は、キリスト教聖人の一人というよりも、サンタクロースと紹介したほうが、ずっと親しみやすいと思います。ネーデルラントでは、聖ニコラウスの祝日は、家族そろって祝う楽しいイベントだったのです。

 聖ニコラウスは、子供、年頃の娘、水夫、旅行者の守護聖人であり、サンタクロースの原型となった人物です。『黄金伝説』によると、三人の娘を持つ貧しい貴族が苦しんでいるのを知り、財力のあった聖ニコラウスは、娘たちの持参金にと三晩続けて黄金を入れた袋を家の窓から投げ込み、その困窮を救ったといいます。そこから、親切な老人のイメージが生まれ、クリスマスの父サンタクロースへと発展したようです。
 12月5日の夜、聖ニコラウスが煙突を通って家にやって来ます。よい子に贈り物とお菓子を運んでくれるのです。ですから子供たちは、暖炉のそばに靴を置き、聖人がその中に贈り物を入れて行ってくれるようにと歌を歌うのです。

 この作品の主人公は、中央でバケツ一杯のお菓子とオモチャを持った子供でしょうか。ひときわ綺麗な晴れ着を着て、本当にゴキゲンな様子です。母親が、「お母さんにも少しちょうだい」とでも声を掛けているのでしょうか。でも、彼は、両手のものを手放す気は全くないようです。
 その後ろでは、兄弟の兄のほうが泣いています。兄の靴の中にはカバノキの一枝が入れてあったらしく、弟がそれを指さして意地悪く笑っています。カバノキには”お仕置き”の意味があるようです。兄はこの一年、イタズラが過ぎたのかもしれません。一方、弟には、当時流行っていたコルフというホッケーに似たゲームの、スティックがプレゼントされたようです。
 彼らの背後で笑っているのは姉と祖父、祖母でしょうか。祖母はベッドのカーテンで見えない奥のほうを示して、泣いている兄を手招きしていますから、彼に面白いものを見せて慰めようとしているのかもしれません。

 作者のヤン・ステーン(1626-79年)は、こうした市井の人々の包み隠さぬ生き生きとした場面を描くことの得意な、オランダ風俗画を代表する画家でした。普通の人々の日常生活が絵画の一ジャンルとなったオランダの黄金時代、ヤン・ステーンは、一見滑稽に見えるこうした作品の中に、道徳的・象徴的なメッセージを込めて、数多くの物語を生み出していったのです。
 ステーンは修業時代、17世紀オランダを代表する風景画家の一人、ファン・ホイエンに師事し、23歳のとき、ファン・ホイエンの娘と結婚しています。主にハールレムなどで活動し、多くの画家の影響を受けていきますが、フランス・ハルスから得たものは大きかったに違いありません。ハルスから学んだ人物の生気に満ちた表情は、ステーンの何よりの特徴となりました。さらに、同時代のヘーラルト・ダウの細密な描写、デルフトのフェルメールデ・ホーホらの静謐な雰囲気も吸収していきます。彼は、多くの画家から学ぶことで自らを高めていくタイプの画家だったのです。
 さらに、ステーンの風俗画の大きな特徴は、作品の中に、機知に富んだ教訓を秘めたことです。この作品の中でも、人物の仕草や表情、身振りなどからさまざまな感情を描き、クリスマスの夜の浮き立つような空気と、ちょっと苦い戒めを描き出しているのです。

 ところで、こうした家庭的な場面を得意としたステーンは、一方で、精緻な描写に才能を発揮する画家でもありました。
 向かって右側に立てかけられた大きな菱形の物体は、パンです。古くから、こうした祝日には必ず各家庭で焼かれたものです。表面の光沢だけでなく、つるんとした触感、焼きたての香りまで漂ってきそうです。さらに、右端のリンゴにはコインが埋め込まれています。当時、友人を驚かせるために、こんなふうにしてプレゼントする風習があったようです。

★★★★★★★
アムステルダム、国立美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋名画の読み方〈1〉
       パトリック・デ・リンク著、神原正明監修、内藤憲吾訳  (大阪)創元社 (2007-06-10出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)



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