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「聖ゲオルギウス市警備隊の士官たちの晩餐」

フランス・ハルス (1616年)

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 この和やかな集団肖像画は、オランダ絵画史における記念碑的作品といえます。1609年、事実上の独立を果たしたオランダは新しい共和国の力強さと自信に満ちあふれていました。そんな空気の中で活動した市警備隊とは、危機に応じて祖国を守るための訓練を受けた市民のことでした。しかし平和と繁栄が続くようになると、彼らの集まりも社交クラブとなっていき、贅沢な宴会が数日間にわたって催されることもあったわけです。作者フランス・ハルスも聖ゲオルギウス市警備隊の会員でしたから、ここに描かれた頑健そうな人物たちとは知り合いだったに違いありません。生き生きと克明に描かれた士官たちは顔の色艶もよく、実に楽しそうにリラックスしています。こうした人物表現は肖像画の第一人者たるハルスの、まさに面目躍如といったところでした。

 フランス・ハルス(1581年/1585年頃-1666年8月26日)はハールレムで活躍し続けた画家であり、肖像画以外はほとんど描かなかったことも特徴的でした。当時のオランダ共和国では集団肖像画の人気が非常に高く、名士たちからの依頼が引きも切らなかったのです。彼は9点ほどの集団肖像画を残しています。
 マニエリスムからバロックへと移行する時期、ハールレムでは何人かの重要な画家が登場していますが、フランス・ハルスほどの人気を博した画家はいなかったかもしれません。彼は一歩ぬきんでた存在だったのです。彼の描く肖像画の中には固い表情やポーズの人は一人もいません。みな、居心地よさそうにくつろいで、楽しく幸せそうです。人々が笑顔で視線を通して語り合い、画面のこちら側の鑑賞者もまたその場に参加する一人のような気分にさせられます。ハルスの大胆で素早い筆遣いが、人々の生き生きとした印象をさらに強めてくれているのです。

 17世紀のオランダはあまり広くない国土であるにもかかわらず、絵画の作風には地域性の違いが顕著に見られます。デルフトで活躍したフェルメールなどの風俗画には静謐で透明な空気感が漂います。これにはデルフト近郊のデン・ハーグに暮らす宮廷人の上品な好みが反映されていると言われます。一方、ハールレムの風俗画には強い世俗性が特徴的で、人々の笑顔やくつろぎを前面に出して描いたハルスはまさにハールレムのハルスだったのです。ところでこの時代のオランダ風俗画に見られる微笑は、実は自制を知らない愚か者の表現だったとの指摘があります。笑顔だからと肯定的に捉えてはいけないとはちょっと驚きですが、絵画に寓意や象徴を込めることが第一義だった当時としては当然のことだったかもしれません。
 しかし、ここに居並ぶ士官たちの楽しそうな、そしてやや「男だけの世界だぞ」的なリラックスぶりは他の画家には望めない見事さです。速いタッチでそれぞれの個性を素早く描いたハルスの市井の人々に対する共感、生命の躍動への賛美は、やはり素直に満喫すべき世界に違いありません。

 ところでハルスは、画家として成功したにもかかわらず、そして比較的長い人生の終わりまで仕事を続けたのにもかかわらず、経済的には苦しい状況が続いたようです。これはフェルメールなどにも同じ事情があるようですが、子供が少なくとも10人以上おり、大家族を腕一本で支えなければならなかったからなのです。一時期、ハルスがアルコール中毒で妻に暴力を振るったDV男だとの説がありましたが、それは同名の従兄の間違いだったことが判明しています。どんなに生活が苦しくても笑顔を貫いたハルス、私たちは安心して改めて彼の作品を楽しむことができます。

★★★★★★★
オランダ ハールレム、 フランス・ハルス美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>

  ◎ビジュアル年表で読む 西洋絵画
       イアン・ザクゼック他著  日経ナショナルジオグラフィック社 (2014-9-11出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)



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