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「羊飼いの礼拝」

ジョルジョーネ  (1504年)

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 救い主の誕生を、大天使ガブリエルによって知らされた羊飼いたちは、喜びいさんで駆けつけました。そこには、生まれたばかりの光り輝く みどり児が眠っていました。

 「羊飼いの礼拝」は、多くの画家にとって魅力的なテーマでしたが、礼拝場面が登場するのは15世紀の終わりになってからでした。
 羊飼いたちは、幼な子キリストの周りに敬虔な様子でひざまずきます。帽子をとり、こうべを垂れ、じっと美しい赤ちゃんに祈りを捧げます。そんな聖家族と羊飼いたちを、熾天使、智天使が見つめています。
 しかし、普通は夜のこととして描かれるこのテーマを、ジョルジョーネ(1476/78-1510年)はあまりにも何気なく、昼間の出来事として描いています。ですから、前景のひっそりと優しい礼拝の場面には静かな時が流れていますが、向かって左後方に広がる風景の中に点在する人々は、この美しい出来事に全く気付いていないようです。

 それにしても、ここは本当は何処なのでしょうか。厩で誕生したと伝えられるイエスですが、幼な子が寝かされているのは洞窟の前なのです。
 しかし、この謎めいた雰囲気こそがジョルジョーネだと言えます。彼の作品はいつも瞑想的で詩的、あるいは寓意的で、主題の解釈の困難なものが多いのです。この作品も、間違いなく「羊飼いの礼拝」でありながら、あまりにもさり気ない情景の中に描き出されています。人々はみな静かで穏やかであり、救い主誕生の歓喜や感動よりも、秘やかな祈りの場、という表現が最もふさわしいように思われます。
 実は、この作品は19世紀以来、作者が特定されていませんでした。どこか師であるジョヴァンニ・ベッリーニ的でもあり、弟子のような存在のティツィアーノ風でもあると言われていたからです。しかし、現在では、ジョルジョーネ作でほぼ研究者の意見も一致しています。

 ところで、画面右側の人物から左の風景へと目を移していくと、この視点移動がいかにもジョルジョーネらしいことに気付きます。
 ジョルジョーネは、風景表現に優れた画家でした。この作品でも、風景がもう一つの主題です。人物は作品の一隅に集中し、あえて風景のための空間が心地よく設けられているのです。
 前景の洞窟から、岩場や水流、田園風の家屋の見えるアルカディアとも言うべき中景を経て、遠景の青みがかった山々へと続く美しさは、どちらかといえばアルプス以北の画家の作品に思えます。
 しかし、その風景描写には、イタリア・ルネサンスの巨匠レオナルドによって作り出されたスフマート技法が用いられています。そうすることで輪郭線は和らげられ、青い山々が霧のように心地よく空に溶け込んでいくのです。

 夭折したために、遺された作品数が少なく、その生涯についてはヴァザーリの伝記以外ほとんど知られていないこともあって、ジョルジョーネは、ヴェネツィア絵画創生期の巨匠と謳われながら、もう一つ不可解な、謎の多い画家なのです。
 ヴェネツィア貴族の私的コレクションのための小品を多く描きながら、物語の主題よりも画面全体の詩的情趣をこそ尊重したジョルジョーネは、もっと近代的な、はるか遠くの広い世界を見つめていたのかもしれません。

★★★★★★★
ワシントン、 ナショナル・ギャラリー 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎ルネサンス美術館
       石鍋真澄著  小学館(2008/07 出版)
  ◎新約聖書
        日本聖書協協会
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎イタリア絵画―中世から20世紀までの画家とその作品
        ステファノ・ズッフィ著、宮下規久朗 (翻訳)  日本経済新聞社 (2001-02出版)



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