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「罪」

フランツ・フォン・シュトゥック (1893年)

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 世紀末の退廃を象徴する、非常に有名な作品です。しかし、何て不思議な絵なのでしょう。じっと見つめていると、彼女の顔は後ろの闇にのまれていき、それとは逆に、その他を圧するような胸の白さがどんどん浮かび上がってきます。男を誘惑し、破滅へと導く妖婦、ファム・ファタル。その極みに立つような彼女の強い視線が一筋の光線のように見る者の目と心を射抜き、人は甘美な悪魔の罠に落ちていくのです。

 ミュンヘンが今より更に芸術の都として輝きを放っていたころ、画壇の中心にいたのがフランツ・フォン・シュトゥック(1862-1928年)でした。彼は、印象主義が浸透し始めていたドイツにおいて、暗い色調の神話や伝説の世界を描き続けました。シュトゥックの場合、若いころは経済的な事情から、挿絵などで生活の糧を得ていましたが、1889年のミュンヘンの万博に「無垢」という作品を出品し、金賞を受賞したことで画家としての地位を確かなものとします。そして、象徴主義がイギリス、ベルギーを経てドイツに流れ込むと、1892年にはミュンヘン分離派の創立にいち早く参加し、この「罪」を発表してセンセーションを巻き起こすとともに、ドイツ象徴派の代表的な画家として自他ともに認める存在となったのです。
 シュトゥック自身はクノップフから強い影響を受けていましたが、彼自身も美術アカデミーの教授となってからは多くの若い才能を指導する立場となっています。彼の生徒には、カンディンスキークレーキルヒナーなどの名前も見ることができるのです。

 裸の女性と彼女に巻きつく大蛇というと、やはり原罪を犯したイヴを想起させます。そして、巨大な蛇は男性の性のシンボルとされており、この作品には、頽廃的で卑俗な世紀末の気分が充ち満ちているのです。それは、この時代だからこそ共感され、もてはやされた雰囲気だったと言えるのかもしれません。
 しかし、私たちは今この作品を目の前にして、少しも古さを感じるということがありません。その上、暗い画面でありながら、伝わってくるのは救いがたい虚無とは違うものです。それは、シュトゥック自身の性格からくるものなのかもしれませんが、不思議にカラリとした明るさと、ある種の気品を感じずにはいられないのです。だからこそ鑑賞者は、ある意味安心して彼女の視線に射すくめられ、魔性の女に手なずけられた大蛇のごとく、その圧倒的な魅力のとりことなってしまうのです。

★★★★★★★
ミュンヘン、 ノイエ・ピナコテーク 蔵
 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎世紀末と楽園幻想
       池内 紀著  白水社 (1992-03-10出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)

 



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