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「空気ポンプの実験」

ライト・オヴ・ダービー (1767-68年ころ)

ジャンプ

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 中央の、ちょっとアインシュタインのような風貌の科学者が、今まさに、「生物が酸素なしでは生きることができない」ことを証明するための実験を行っているところです。
 中央の大きな丸いガラスの容器の中には白い鳥が一羽入れられており、それを人々がそれぞれの表情で見守っているのですが、最初は元気だった鳥が、酸素の欠乏とともに徐々に弱っていく様子を目の当たりにして、人々は少々パニックに襲われ始めているようです。中央で、姉らしい少女にすがりながらガラス容器を見上げる女の子のつらそうな表情が殊に印象的で、実験そのものよりも、人々の反応が劇的な明暗を用いて描き出された 183×244㎝の非常に印象的な大作です。

 イギリスの産業革命は、18世紀の半ばころから急速に進みました。それに伴って、近代的な工場の出現、新しい科学技術など、画家の関心も新たな方向に向かうようになります。そんななかで、進化論で有名なダーウィンの祖父エラスマス・ダーウィンや蒸気機関の発明者ジェームズ・ワットなどの知友の影響もあって、ライト・オヴ・ダービーはこの時期、科学実験や産業技術をテーマとした作品を意欲的に描いています。

 ジョゼフ・ライト…通称ライト・オヴ・ダービーは、イングランド中部のダービーに生まれ、肖像画家として出発した人です。
 しかし、1765年ころから、この作品に見られるように、特に月の光やろうそくの灯りといった神秘的な光の効果を用いて、陰影の強い、特殊な印象の残る作品に取り組んだのです。科学実験をテーマにしながら、彼の作品には不思議な静謐さと詩情が漂います。また、確かな人間観察の手腕も、画面をより魅力的に引き揚げます。
 冷静すぎるほどの冷静な態度で白い鳥の状態を人々に示す科学者と、一般人の、それとはまたまったく次元の違う反応と….。ライト・オヴ・ダービーは、それぞれを非常に客観的に、写実的に、かつまた誠実な観察眼でみごとに描ききっているのです。彼のこうした態度は、やがて始まるロマン主義運動への萌芽をさえ感じさせます。 

★★★★★★★
ロンドン、 ナショナルギャラリー 蔵



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