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「磔刑」

ポルデノーネ (1520-22年)

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 全てが旋回し、動き回り、怒り狂う…。なんと激しい場面なのでしょう。これがキリスト磔刑なのでしょうか。伝統的な磔刑図とは、あまりの表現の違いに目まいを感じるほどです。クレモナ大聖堂の受難伝の壁画連作の中でも最も暴力的で劇的な、920×1200㎝の忘れ難いフレスコの大作です。

 作者のポルデノーネ(1483-1539年)は本名をジョヴァンニ・アントニオ・デ・サッキスといい、生地である北イタリアの都市ポルデノーネがそのまま通称となった画家です。常にティツィアーノのライバルと言われ、その手腕には定評がありましたが、主に地方で活躍したため、その名はティツィアーノほどには浸透しなかったようです。
 初期のころはジョルジョーネやティツィアーノらヴェネツィア派の影響を受けましたが、1516年ごろからはローマのミケランジェロの影響が顕著となりました。そのため、マニエリスム的性格の強い、劇的で独特な、イリュージョンを見るような画面を得意とするようになったのです。群衆の激情が渦巻くような作品ながら、美しく透明な色彩と凝った構図から、画家の並々ならぬ技量がうかがえるようです。

 嵐の中、光は拡散し、極端な短縮法で表現された馬たちの目は興奮のためか悪魔のような邪悪さです。戸惑い、怯え、混乱する人々の中に倒れ込んだ聖母マリアは、わが子の死の悲しみよりも、この恐ろしい場面に身を置くことに耐えきれなくなったかのようです。
 この不安な画面の理由は、非対称に位置する三本の十字架のせいかもしれません。十字架は、すべて斜めからとらえられています。二人の罪人は、現実にはあり得ない浮遊したような動きでその存在を示します。そして、キリストも画面中央には配されていません。全体を集約して中央に立つのは、キリストを指さす大きな兵士です。彼は一体、何を言おうとしているのでしょうか。
 情熱に突き動かされたような大仰な身振りの人物群はポルデノーネの大きな特徴ですが、それはまた、当時の地元の画壇に衝撃を与えました。しかし、彼の、それまでの伝統を打ち破った自由で不安定な表現は、現代の私たちをも十分に刺激し、困惑させてくれるのです。

★★★★★★★
クレモーナ大聖堂蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
       諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
       諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)



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