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「白鴨」

ジャン・バティスト・ウードリ (1753年)

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 なんて静かな世界なのでしょう。まるで時が止まったようです。すべてのものが眠りについたまま、二度と目覚めることがないのではないか….という気がします。食に供されるために命を失った真っ白な鴨の悲しみが、白く淡い光の中で、深く見る者の心の中に流れ込みます。壁も陶器も蝋燭もテーブルクロスも、そしてもちろん鴨もすべて白で統一し、しかもその微妙な色味、質感の違いをみごとに描き上げた、胸に染み入るような一作です。

 作者のウードリ(1686-1755年)は、初め肖像画家でしたが、やがて動物画、静物画に転向して名声を確立したフランス・ロココの画家です。もともとはフランドル・オランダ絵画を学んでおり、職人的な聖ルカ・アカデミーの出身にもかかわらず、王立アカデミーに入会、のちには教授まで務めています。王太子ルイやルイ15世ら、そうそうたるメンバーを顧客に持ち、活躍していたのですから、その人気のほどがうかがえます。
 彼は、対象を正確に再現することに情熱を傾けた画家でした。そして、何よりもウードリらしさを発揮したのが、トロンプ=ルイユと呼ばれる「だまし絵」の効果をねらった表現なのです。この作品もまた、まるで鑑賞者の眼前に白鴨が吊されているような迫力と臨場感に満ちています。だからこそ私たちは、この鴨にストレートに感情移入してしまうのではないでしょうか。

 風景画や肖像画、静物画は、もちろん対象を写実的に表現することが第一でしたが、これらのジャンルから写実を超える魅力的な作品が生み出されるようになったのは、おそらく18世紀に入ってからです。その背景には、歴史画を最も高尚なものとした古典主義への反発、そして市民階級の台頭が考えられます。一方、ヴェルサイユなどの王宮を飾る豪華な静物画も盛んに制作され、草花や果物のほかに、こうした狩猟の獲物も、しばしば描かれたのです。
 微妙に調子の異なる白によって構築されたウードリならではの世界は、画家最晩年の充実した画境が確かな説得力をもって伝わる、典雅な悲しみに満たされているのです。

★★★★★★★
ロンドン、 個人蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也訳  講談社 (1989-06出版)



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