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「王女ヴィクトワール」

ジャン=マルク・ナティエ (1748年)

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 ルイ15世には6人の娘がいました。ルイーズ=エリザベス、アンリエット、アデライード、ヴィクトワール、ソフィー、ルイーズです。画面の中からゆったりと微笑むのは、そのうちの第二王女ヴィクトワール….。彼女は、8歳のモーツァルトからヴァイオリンのためのソナタを献呈された王女としても知られていますが、マリー・アントワネットのものとされる有名な言葉、
「パンがないならお菓子を食べればいいんじゃないの」
を口にした本当の人物とも言われています。
 それはさておき、抑えた色彩ながら、その衣装の豪華さ、繊細さには目を奪われます。どんなに華麗に装っても衣装に負けない威厳を見せつけるあたり、さすがに王家の姫君…ということでしょうか。やはりナティエには、上流階級の子女の肖像画が似合います。優美なナティエ色…とでも表現したいようなロマンティックな世界の中で、王女ヴィクトワールは永遠に微笑み続けます。

 ジャン=マルク・ナティエは、18世紀フランスの肖像画家です。そもそもは歴史画家としてアカデミー会員となりましたが、ナティエの描いた肖像画が王妃マリー・レクザンスカの目に止まったことがきっかけで、王家の肖像画を描くようになり、以来、肖像画家として活躍するようになったのです。殊に「神話的肖像画」といわれる、ディアナやフローラなどオリュンポスの神々に扮したモデルを描いた肖像画は人々に大歓迎されました。
 当時は、神話や寓意上の女性像に扮した肖像画が大流行していたのです。今見ると、少々軽薄で、芝居がかって、いかにも時間のあり余った貴族の趣味にも感じられますが、画家にとってはモデルを称え、大いなる賛辞を捧げたことになるものだったのです。神話の主人公になることは、女性たちにとって、この上ない喜びと自己満足だったことでしょう。ただ、やがて写実的精神が強く求められるようになると、この「神話的肖像画」も当然のことながら、時代遅れのものとなっていきますが….。このあたりにも、豪華絢爛、ごてごてとした、やや装飾過剰なロココの顔が見えてくるようです。
 しかし、従来の肖像画といえば、たいてい重厚で威厳のあるものと決まっていました。これではロココの軽やかな趣味には合いません。そこへナティエのような画家の、淡く明るい色彩の優美な肖像画が登場したのです。

 ルイ15世の息女たちの御用画家であり、王妃、王太子、そしてポンパドゥール夫人にもあつく用いられ、肖像画を描き続けたナティエはまた、哲学者であり批評家でもあったドニ・ディドロによって「紅白粉で絵を描いた」とまで酷評されました。しかしナティエは、彼の持つ繊細で優美な資質を晩年にいたるまで、失うことはありませんでした。

★★★★★★★
ヴェルサイユ宮国立美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎フランスの歴史をつくった女たち〈第5巻〉
        ギー・ブルトン著、田代 葆訳  中央公論社 (1994-08-15出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)



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