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「燃えたつ六月」

フレデリック・レイトン (1895年ころ)

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 無防備に眠る若い女性の豊満なボリューム以上に、薄い衣装のみごとな襞の美しさに目を奪われます。
 ヴィクトリア朝を代表する新古典主義の画家レイトンは、作品の考察やモチーフの構想に長い時間を費やし、細部の描写に熱心に取り組みました。そして、モデルが服を着ているときとヌードの場合を対比描写し、その身体の曲線の流れを描き出すことに努めました。そんな彼の研究の成果が集約され、大輪の薔薇となってこぼれんばかりに咲いたのがこの作品であり、レイトンの最もよく知られる美しい一作なのです。

 60年を超える年月にわたって君臨し、祖国の繁栄につとめたヴィクトリア女王の時代のイギリスは、世界に冠たる強国としての地位を築いていました。しかし反面、貧富の差は覆いようもなく、1848年に起こったフランスの二月革命によって火がついた共和主義の運動は、ヴィクトリア女王治下のイギリスにも波及し、労働者階級の政治運動となっていきます。こうした都市が抱える産業革命の矛盾を隠蔽するかのように、この時代は道徳的な規制が強く、美術の面でも非常に理解しやすい表現が好まれていたようです。そうした背景もあり、対象を写実的に明快に表すレイトンの作品は、ごく自然に愛されるようになったのです。

 しかし、絵画表現が説教調に傾き、また感傷的なストーリー性を増すなか、レイトンの描く女性たちは、なんとも鮮やかで甘美で魅惑的です。イギリスでは、 19世紀初頭にギリシャからパルテノン神殿の彫刻が持ち帰られたこともあり、芸術家たちは遠いギリシャへと想いを馳せ、見る人の心を誘いました。この作品もまた、背景に広がる穏やかな海と、遠景にはロードス島を臨むことができます。そして、けだるい地中海の夏の日は、官能的な香りに包まれ、ゆっくりと過ぎてゆくのです。 

★★★★★★★
プエルトリコ、 ポンセ美術館 蔵



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