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「楽器」

エヴァリスト・バスケニス (17世紀半ば)

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 演奏終了後、無造作にテーブルに置かれたまま、時が移ろっていったのでしょうか、暗い背景から浮かびあがる暗褐色の楽器たちが醸し出す静けさに、思わずシン…という音を聞いたような錯覚に陥ります。
 楽器たちはきわめて低い視点から描かれ、美しく純粋な半円形をなして、ゆったりとそこに三次元的な形態をとどめています。切れた弦や偶然を装いながらも計算された配置、そしてワニスの上塗りを施された滑らかな木肌にまで、画家のきめ細かい端正な目配りが行き届いているようです。

 15世紀以来、音楽は美術においても親しまれてきた主題でした。宗教画のなかで奏楽天使たちの奏でる甘美な調べは見る者を法悦へと導き、神話画のなかにおいては楽器を手にする若者は愛の象徴でもありました。
 しかし、こうした付随的な道具立てとしての位置ではなく、楽器そのものが静物画のジャンルで独立するのは、イタリア・バロック期の画家エヴァリスト・バスケニスのちからによるところが大きかったかも知れません。

 バスケニスは17世紀ベルガモの静物画家でしたが、この時期、ベルガモをはじめロンバルディア地方一帯で静物画の収集が流行したことが、バスケニスを静物画に専念させる一つ大きな要因でした。そこにさらに、当時の貴族たちの音楽愛好も加わり、また、ベルガモ近郊のクレモナでは、アマーティやストラディヴァリ一族が名器として名高いヴァイオリンの製作に従事していたこともあって、実際にバスケニスの描いた数々の静物画の中心をなしていたのは、これらの高価な楽器でもあったのです。バスケニスは、彼の持つ厳格で写実的な対象表現と、16世紀のアルプス以北の遠近法表現の研究成果をいかんなく発揮して、比較的同じモティーフを繰り返し描いたのです。彼は殊に、楽器の丸みをもった形態を効果的に用いることが多く、そこに表現された光の曲線の美しさは、そのまま楽器製作者たちのみごとな腕への称賛にあふれているかのようにも見えます。
 しかし、さらによく見たとき、バスケニスの描く楽器の上にはしばしばホコリが積もっていて、それを何者かがなぞったのではないかと思われる跡さえあることにハッとさせられます。そして鑑賞者は、思わず手を伸ばして、そのホコリを払いたくなるのです。それは、バスケニスの企んだイリュージョンでしょうか….。そこで私たちは、かすかなもどかしさと共に、弦楽器がまさに人間が手を触れ、奏でるものであること、そして、その上に積もったホコリの上を静かに流れ去る時の存在を実感するのです。  

★★★★★★★
ベルガモ(イタリア) アカデミア・カッラーラ 蔵



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