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「東方三博士の礼拝」

ドメニコ・ヴェネツィアーノ (1445年ごろ)

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 この宝石箱を開いたような美しい作品は、15世紀イタリアで活躍した画家、ドメニコ・ヴェネツィアーノ(1410年ごろ-1461年)による可愛らしい円形画です。画家の初期の傑作として知られていますが、細部の緻密で丹念な描写は、時間を忘れさせる魅力に満ちています。

 一見すると、あまりに優雅で気づきにくいのですが、これは伝統的な「マギの礼拝」を描いた板絵です。
 ユダヤの王を探して、星に導かれて東方からやって来た三博士、カスパール、バルタザール、メルキオールは、聖母に抱かれた幼いキリストに礼拝しています。
 うやうやしくイエスの足にキスするのは、最年長のカスパールでしょう。その後方に控えるバルタザール、最年少のメルキオールも、金細工のみごとな入れ物に入った乳香と没薬の贈り物を携え、順番を待っています。
 彼らの衣装の豪華さは、その質感までも感じさせる精緻な美しさです。三博士はずいぶんと大勢の従者を引き連れているようですが、それぞれの表情も独特で、服装や髪形、乗ってきた馬たちまで表情豊かで、しかもユーモラスでさえあります。
 殊に目を引くのは、お尻を見せる白い馬の姿かもしれません。オシャレした彼の後ろ姿は印象的で、ひもの部分に書かれている文字は、画家がフィレンツェのメディチ家当主、ピエロ・ディ・メディチ宛ての手紙の中で用いた文字の縮小形であることがわかっています。そこから、この作品がピエロのために制作されたものであろうと言われています。
 さらに、前景で完璧な後ろ姿を見せる人物のケープ風の上着は、まるで蝶の羽根のような鮮やかさで、思わず目を奪われます。画家の確かな絵筆の軌跡は奇跡のように黒地に映えて、布地のふんわり感まで心地よく伝わってくるようです。そして、彼の巻き毛の緻密さは、レオナルドの描く巻き毛を思い起こさせます。
 そして、遠景の詳細に描き込まれた風景の清々しさは、どこかフランドル絵画の澄明感を思わせます。汚れない緑、遠い山々、美しい空への空気遠近法からは、ファン・エイクらの北方絵画の雰囲気を感じることができます。

 ところで、ドメニコ・ヴェネツィアーノは、ある意味で謎の画家です。現存する作品の少なさや、ヴァザーリの伝記以外の記録が殆どないこともあって、その生涯については不明な部分が多いのです。しかし、人物への生き生きとした関心、個性的な表情、そして光と色彩の細やかな構成からは、彼の豊かな絵画経験が伺えるのです。
 この画面の中にも、たくさんの人物、そして動物たちが描き込まれていることから、15世紀北イタリアの国際ゴシック様式を代表するピサネッロ (1395-1455年)を連想させます。ピサネッロも、動物や幻想的な物語場面を得意とした画家でした。
 ところが、人物と風景を包む空間の感覚、モニュメンタリティは、いかにもイタリア・ルネサンス的な確固とした構成力を実感させるのです。
 このことから、ドメニコ・ヴェネツィアーノの中には、フランドルとイタリア・ゴシックとルネサンスが不思議に同居していると言ってもいいのかもしれません。それは、彼がローマとフィレンツェという多彩な素地を持った土地で芸術的才能を磨いたという事情が大きいのかもしれません。複雑で豊かな魅力をたたえたドメニコ・ヴェネツィアーノの画面に、私たちはひとときも飽きることがないのです。

★★★★★★★
フランクフルト、シュテーデル美術研究所 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎ルネサンス美術館
       石鍋真澄著  小学館(2008/07 出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
         諸川春樹監修   美術出版社 (1997-05-20出版)  



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