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「朝の鐘」

ウィンスロー・ホーマー (1866年)

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 澄んだ空気の向こうから、朝の鐘が聴こえてきます。そして、その空気を突き抜けるような少女たちの明るい笑い声は、清らかな大気の中にすいこまれていきます。この陽光あふれる新鮮で細やかなホーマーの描く光景は、「印象主義前派」などとも呼ばれ、コローモネの中間をいく作品と言われています。

 面白いことに、印象派の画家たちに最初に注目し、反応してパトロンとなっていったのはヨーロッパ人よりもアメリカ人のほうでした。フランスの美術館がどれ一つとして印象派の作品を購入しなかった時期、すでにアメリカの美術館は収蔵品として受け入れています。そして、マネやその仲間たちの門下には早くからアメリカ人の画家の名前を見ることができ、ホイッスラーなどもその一人でした。
 ホイッスラーはその後ロンドンに居を移しながら、印象主義運動と密接な接触を保っていきますが、反対に、若いころにパリを訪れながら滞在期間が短かったため、印象主義の強い影響を受けるにいたらなかったのが、このホーマーでした。ですが、そのためにかえって、彼独特の、自由で美しく端正な画面を構築し、当時のアメリカに多く現れた風俗画家のなかでも一歩高い近代性をそなえた作品を生み出していくのです。

 ホーマーは南北戦争の間、戦争記録画を描き、また1875年まで「ハーパース・ウィークリー」という雑誌のイラストレーターとして活躍しました。ですから、彼の作品からは非常に確固とした形態をとらえる力を感じることができます。そしてまた、誰にもたいへん理解しやすく親しみ易く、一つのくもりもない明晰さ、安心感に満ちた画面構成となっているのです。
 ヨーロッパが芸術のための芸術とも言うべき強い理念をそなえた芸術を生み出してきたとするなら、アメリカは社会に起こる現実そのものを把握し、そこから芸術を創り上げてきた国と言えるのかも知れません。そういう意味でホーマーは、才能あふれる画家であり、売れっ子のイラストレーターでもあったという、ある意味でとても意味深い二つの顔を持つ、すぐれてアメリカ的な画家と言えるのかも知れません。

 そんなホーマーが、この作品では非常に巧妙な画面構成で、ちょっと遊んでいるようにさえ見えます。それは、中央の少女が歩む登り坂になった小道はシーソーのようで、その上への心地よい傾きは、木の幹の垂直な線と組み合わされて、とてもしっかりとしたバランスを保つものとなっているからです。

★★★★★★★
コネティカット州、 エール大学・アートギャラリー 蔵



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