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「最後の審判」

ルカス・ファン・レイデン (1526年)

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 ヨハネの黙示録とマタイ書に詳しく述べられた「最後の審判」は、幻想的で容赦ないものです。
 この世の終わりに際し、栄光に包まれたキリストが現れて玉座に就き、生者も死者もすべての人々に最終的な審判を下し、天国と地獄に振り分けるというものです。天国に選ばれた者は、神の国で永遠の生命を与えられます。そして、地獄に送られた者は、永遠の苦しみを受けることとなるのです。

 祭壇画の中央上部には、この壮大な画面の主役、審判者キリストが坐しています。その上方には、父なる神と聖霊が見守り、キリストの向かって左側には百合の花、左側には剣が浮かんでいます。これは、百合が無罪を、剣が有罪を示しているのだと言われます。
 その下方では、天使の吹くトランペットの音で目を覚まし、起き上がった死者たちが、審判を受けています。向かって左側には、天使によって選ばれた者たちが、ゆったりと導かれていきます。そして、右側には、悪魔によって選ばれた呪われた者たちが地獄へと引き立てられていくのです。地獄へ向かう者たちは、みな一様に、明るく光り輝く天国のほうを見ています。彼らがどちらを望んでいるのか、一目瞭然なのです。
 向かって左側のパネルには、人々の魂を連れた天使たちが、天上に向かって飛んでいるのがわかります。一方、右のパネルでは、巨大な魚が口を開けており、その中は紅蓮の炎が燃えさかっています。ここは、地獄の入り口なのでしょう。投げ込まれる人々の悲鳴やうめき声が聞こえてくるようです。

 「最後の審判」の図には、得てしてドロドロとした暗い雰囲気が付きまといます。神による人間の振り分けと、中世のインスピレーションを残した地獄図は、当時の人々に言い知れぬ恐怖を与えたことでしょう。
 しかし、この審判図には、不思議な明るさと、あっけらかんとした澄明感が漂います。それは、作者ルカス・ファン・レイデン(1494-1633年)の顕著な特徴でもありました。
 16世紀ネーデルラントの画家ファン・レイデンは、どちらかと言えば版画家として知られています。1521年、アントウェルペンを旅行中のデューラーと出会ったことで、大きな影響を受けたようです。繊細な刻線で作る微妙な陰影表現は、油彩画にも生かされています。明るい光に照らし出された人物の裸体は、丁寧に描かれた影によって、より鮮明な存在感を示しているのです。
 さらに、前景から中景、後景にいたる自然な奥行き空間と、そこにいくつかの塊となった群像表現も、ファン・レイデンの得意とするところでした。宗教画より、むしろ風景画に関心を持っていたと言われる画家の興味が遺憾なく発揮され、不思議なほど美しい「最後の審判」を実現しているようです。

 この祭壇画は、レイデン市の木材商であり、教区委員、市長もつとめたクレース・ディルクスを記念するため、その子息によって注文されたものでした。当初は、聖ペテロ聖堂の地方行政官の席上に掛けられていましたが、のちに市庁舎に移されています。「最後の審判」というテーマは、法律を制定した人々の公平さを称えるために描かれ、市庁舎や行政官の部屋に飾られるのが一般的だったのです。

★★★★★★★
レイデン、 デ・ラーケンハル市立美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術史(カラー版)
      高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋美術館
      小学館 (1999-12-10出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
      佐々木英也訳  講談社 (1989-06出版)
  ◎西洋名画の読み方〈1〉
      パトリック・デ・リンク著、神原正明監修、内藤憲吾訳  (大阪)創元社 (2007-06-10出版)



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