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「手紙」

ヘラルト・テル・ボルフ (1660年ごろ)

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 17世紀の風俗画に登場する手紙は、だいたい恋文と思って間違いありません。召使いの少年が豪華な金の水差しを載せた水盤を運んできた様子からも、この家の主人の裕福さがうかがえます。
 毛皮の縁飾りのついた上着をまとい、頬杖をつく美しい女主人は思案顔で目の前の少女を見上げています。少女は女主人の妹なのかもしれません。姉のために手紙を読み上げているところです。姉は返信の文面をどうしようか、と考えているように見受けられます。

 ヨハネス・フェルメールと同じ時代に活躍したテル・ボルフはフェルメールと同じく、女性が一人で室内にたたずむ場面を描くことの多い画家でした。しかし、最も得意としたのは、この作品のような三人の人物の構図であり、試すように何度も繰り返しこの組み合わせを描いています。
 そして、ここで注目したいのが、少年の視線が女主人にではなく、立った少女のほうに意味ありげに向けられていることです。それは、こちらには聞くことのできない、少女が読み上げる手紙の内容のためだと思われます。熱烈な愛の言葉が書き連ねられているのか、それとももっと深刻な内容なのか、立っている少女の横顔だけでは判別がつきませんが、三者三様の表情、視線の投げ方がとても印象的です。こうした視線のドラマは、テル・ボルフの非常に大きな特徴でした。

 ヘラルト・テル・ボルフ(1617-1681年)は早くからその才能を示し、一流の肖像画家としてスペインのフェリペ2世に雇われ、騎士にまで叙されています。しかし、さまざまな事情でオランダに帰国してからは、デーフェンター(現在のオーファーアイセル州の町)に定住し、そこで町会議員になるという異例の経歴を持っています。
 テル・ボルフの真価は何といっても見事な肖像画でしたが、今ではこうした風俗画家として知られています。ただし、彼の描く風俗画は、多くは同時代の富裕層、知識階級の真実を扱ったものであり、その筆遣いの丁寧で滑らかな感触には多くの人が魅了されました。それは、同時代の他の多くの画家とは一線を画すものだったのです。
 殊にこの作品でも、立っている少女のドレスに見られるような銀色の輝きを放つサテンの質感、光沢、色彩の美しさには超絶という表現こそ似合うでしょう。まぶしいほどの輝きを放つ少女の衣装の、触ればカサッと音のしそうな張りの感触は、絵画が単に眺めるだけのものでないことを実感させてくれます。そして、この表現は、多くの弟子や画家たちが模倣しようと試みながら、だれにも到達することのできなかったテル・ボルフならでは画境だったのです。

 ところで、17世紀に入ると、オランダの風俗画は主題にも様式にも上品さが表現されるようになりました。そうした傾向の頂点に立つのがテル・ボルフでした。フェルメールも、この画家から多大な影響を受けたことは間違いないと思われます。
 それまでの風俗画といえば、農民や市井の人々を題材に、コミカルに生き生きと描かれたものが主流でした。しかし、テル・ボルフが活躍するころには、上流社会の社交や家庭の団らんを描いた上品な作品が好まれるようになったのです。

★★★★★★★
ロンドン、 王室コレクション(セント・ジェームズ宮) 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎バロック1 世界美術大全集 西洋編16
       神吉敬三, 若桑みどり 編集 小学館 (1994-05出版)



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