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「大きな白樺の下での朝食」

カール・ラーション (1895年)

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 「よく晴れたさわやかな日には、家の裏にある大きな白樺の樹の下で、私たちは食事をします。ごらんのように、この白樺の樹はどの木々よりも素敵です。もしこの樹がなかったなら、ここは私にとっては何の意味もないところになったでしょう。この白樺が素晴らしい木陰をつくり、いつもちょうどよいそよ風が吹いて、羽虫や蛾も寄りつかないのです」。カール・ラーションは彼の画集『わたしの家』の序文にこのように記しています。
 やさしい心地よい風の吹き抜ける裏庭の木陰は、家族の大切な団らんの場所でした。ラーション家の人々、絵のモデルを務めた女性、そして愛犬カポも食卓の一員です。こちらを振り返って見詰めているのはお茶目な3女ブリータです。彼女は画面のこちら側にいる画家を見ているのでしょう。「お父さん、こっち」とスプーンを持って呼んでいるようです。テーブルの左端の椅子にはラーション自身が座っていたのでしょう。そこにはまだ温もりが残っているようです。画家である父の優しい眼差しが、この美しい画面いっぱいに注がれているのがわかります。

 左側に見える建物は、家族の住まいリッラ・ヒュットネースの東側になります。明るくよく手入れされた壁の色が印象的です。リッラ・ヒュットネースはラーションの家の愛称であり、現在、カール・ラーション・ゴーデン記念館となっています。ダーラナ地方のスンドボーン村に伝統的な家を手に入れたラーションは、妻とともにリノベーションを繰り返し、家を美しく理想的に改装していきました。家具からテキスタイル、壁画、洋服、食器に至るまですべて妻カーリンとともに唯一無二の空間をつくり上げたのです。ラーション一家の暮らしぶりはスウェーデン・インテリアに深い影響を与えてきました。

 カール・ラーション(1853年5月28日 – 1919年1月22日)は1883年、カーリン・ベーリェーと結婚し、1888年にカーリンの父アードルフ・ベーリェーから土地つきの家を譲られました。それがリッラ・ヒュットネースです。スウェーデン語で Lilla Hyttnäsといい、「岬の小さな製錬小屋」という意味を持っています。
 当初は5つの部屋のある2階建て家屋でしたが、その後数年にわたって家は改装され、アトリエが設けられ、後に大きなアトリエを離れ家として新築しています。さらに母屋と離れ家の間に2階建ての家を建てるなど増築を重ね、この間、屋内のインテリアも整えられていきました。家具やカーテン、タペストリーなどのデザインには、カーリンの芸術家としての才能が発揮されています。

 カールの妻カーリンはスウェーデン中部、ネルケ地方のエレブルーの成功したビジネスマンの家に生まれ、早くから絵の才能を発揮した才色兼備な女性でした。ストックホルムの学校で学び、手工芸学校で学んだ後、1877年から1882年の間、スウェーデン王立美術院で学んでいます。カール・ラーションとの結婚後、カーリンの画家としての才能が世間に知られることはありませんでしたが、夫妻の家リッラ・ヒュットネースのカーテンやタペストリーといったテキスタイルは、まさにカーリンの手になるものでした。また、「カール・ラーション様式」と呼ばれるドレスや妊婦服、小さな女の子用ドレスもデザインしており、現在一般に公開されているリッラ・ヒュットネースでは、彼女がデザインした花台、小児用ベッドも見ることできます。

 向かって左側の白樺の幹には、1894年の年記とハートに矢、ラーションとカーリンのイニシャルを見てとることができます。幸せな笑い声に満ちた食卓、子供たちとの楽しい会話、そして美味しい食事。画集『わたしの家』にはこうした日々の暮らし、家族の情景が彼らの住むリッラ・ヒュットネースとともに飾ることなく描かれています。家族をモデルに描いた画家は古今東西おおぜいいるわけですが、家族と家の物語を画集にした画家はラーションだけかもしれません。私たちは作品を見ることで、このスンドボーンの住人たちとすぐに仲よくなることができるのです。

★★★★★★★
ストックホルム スウェーデン国立美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎366日 絵のなかの部屋をめぐる旅
        海野 弘著 パイインターナショナル (2021-7-28出版)
  ◎カール・ラーション スウェーデンの暮らしと愛の情景 (ToBi selection)
        荒屋鋪 透著 東京美術 (2016-11-11出版)
  ◎ビジュアル年表で読む 西洋絵画
       イアン・ザクゼック他著  日経ナショナルジオグラフィック社 (2014-9-11出版)



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