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「夢魔」

ヨハン・ハインリヒ・フュースリ (1781年)

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 上半身をのけぞらせて、ベッドから落ちてしまいそうなこの女性は、眠っているのでしょうか、それとも…。とても不安で不気味で、そしてエロティックな予感を抱かせるフュースリの代表作です。

 彼女の上には怪異な悪魔がうずくまって、じっとこちらを見据えています。そして、赤いカーテンの間から頭だけをのぞかせている不気味な馬はナイトメア…夢魔なのです。この幻想的な一場面は、他に3点の油彩によるバージョンが….フランクフルトのゲーテ博物館、ニューヨークのヴァッサー・カレッジ美術館、チューリヒのマスタ・マルク=ゾシン夫人の個人蔵として世界に散らばっています。
 18世紀のヨーロッパでは、世紀末に近づくにつれて、不合理なもの、神秘的なものに対する関心がふつふつと芽生え始めます。そして、絵画の世界でも、夢や幻想、また狂気の世界を視覚化することが盛んになっていきました。これは、美の規範が深く確固としていたフランスよりも、むしろ美術的な伝統においてはやや浅いドイツやイギリスにおいて、強い傾向として見ることができます。画家たちは、まだ古典的な様式にとらわれていましたが、それでも自由な表現を試み、想像力をより強く刺激されるテーマを選ぶようになったのです。

 そんななかで、スイス出身の画家フュースリは、イギリスに渡った後、プレ・ロマン主義と言われるそうした美術の先駆的な存在となります。非常な知識人として知られたフュースリは、古典の神話やダンテ、シェイクスピア、ミルトン、北方神話などから広く主題を求め、それらを介して、恐怖や憎悪、妄執といった人間の根元的な情念を、強迫観念や幻想性を強く表すエキセントリックな画面として展開し、人気を集めました。
 ロイヤル・アカデミーの教授として選出されたフュースリは、彼の生涯を賭けて追い求めたテーマ….ミケランジェロの示す「崇高さ」の表現を、恐怖と幻想の中に求めようとしていました。しかし、フュースリ独特の並はずれたドイツ的な想像力、イタリア的なマニエリスムの誇張、そして人体に加えられたデフォルメはたしかに特異な幻想性を生み出しましたが、それはまた、彼の素描力の限界を感じさせるものでもあったのです。

 それでも、フュースリの示す強い幻想性、劇的な明暗の対比や、しばしば画面に登場する異形のものたちのイメージは、のちのシュルレアリスト、表現主義者たちの大きなイメージの源泉ともなっていくことになります。  

★★★★★★★
アメリカ、 デトロイト美術研究所 蔵



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