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「夜の降誕」

ヘールトヘン・トット・シント・ヤンス (1480-85年)

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 まるで、こけし人形のように可愛らしい聖母は、四角い箱の中の生まれたばかりの幼な子をじっと見つめています。その聖母の卵形の小さな顔も、腕も指も、そして箱の中のキリストも、まるでろくろの上で回転させて造形されたように円くなめらかで、周りの天使たちもまた、同じような円みで描かれています。

 この34×25㎝の小さな板絵の不思議な美しさは、単純化された登場人物や物たちの形によって、より効果的に、幻想的に演出されているようです。幼児キリストが放つ光で照らされる夜の降誕というテーマは古くからあるものですが、ヘールトヘンは、イエスが下方から発する光を唯一の光源としたことで、非常に強い明暗を実現しています。そして、真っ向から光を浴びたものたちを平滑に単純に見せることによって、その画面に、今までになかった現実感を醸し出しているようです。

 ヘールトヘンは、光の扱いと構図に天才的なものを持った画家でした。ヤン・ファン・エイクの発見したさまざまな画法を応用しながら、また、ネーデルラント諸都市で活躍したフースやクリストゥスの影響を受けながらも、まったく独創的な画境を開いていったのです。15世紀最後の25年間ファン・デル・フースに比肩しうる画家は一人も現れなかったと言われます。しかし、北方オランダに、まるで17世紀のジョルジュ・ド・ラ・トゥールを思わせるような画家ヘールトヘン・トット・シント・ヤンスが存在したのです。

 それにしても、強い明暗を持ちながら、なんてやさしく、心にしみる作品でしょうか。画面遠くには、輝く天使が、夜番をする羊飼いたちに神の子の誕生を告げる様子が見てとれます。これから、驚きと歓びに胸をはずませて集まって来るであろう羊飼いたちのざわめきの声が、遠くから聞こえてくるようです。 

★★★★★★★
ロンドン、 ナショナルギャラリー 蔵



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