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「嘲笑されるキリスト」

フラ・アンジェリコ (1440年代前半)

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 不思議な三角構図です。そして、悲しげに目隠しされたキリストが印象的です。
 この作品は、「マタイ福音書」26:67、「マルコ福音書」14:65、「ルカ福音書」22:63-65に記された、ユダヤ人によるキリストへのさまざまな侮蔑を象徴的に描写した壁画なのです。
 
 諸説あって定かではありませんが、イエスは十字架につけられる前、兵士たちにイバラの冠をかぶせられ、葦の棒と出来合いの宝珠を持たされ、嘲弄されたとされています。ある者はイエスの顔につばを吐きかけ、目隠しをし、こぶしで叩いたといいますが、この作品では、嘲弄する者たちが顔や手だけで描かれています。それは、これが現実に起こった出来事ではなく、向かって左側に聖母、右側に聖ドミニクスを配することで、見る者を瞑想に誘うイメージとして構成された画面だからなのです。
 こうした表現は当時非常に珍しく、シュルレアリスムに影響を与えたほどに、以後も長い間、さまざまな表現者たちにインスピレーションを与え続けました。フラ・アンジェリコの洗練された感性を感じずにはいられません。

 この作品は、15世紀前半にコジモ・デ・メディチによって全面的に改修され、ドメニコ会に与えられたサン・マルコ修道院の僧坊を飾る壁画の一つです。悲惨な場面でありながら静謐さが漂うのは、やはり修道士たちの祈りの場に置かれた作品だからなのでしょう。そして、何より作者フラ・アンジェリコの画境のたまものと言えるに違いありません。
 フラ・アンジェリコは1438年ごろから46年ごろにかけて、サン・マルコ修道院2階の僧坊、廊下、1階の参事会室および回廊に、一連のフレスコ画を描きました。主題はキリストの生涯、受胎告知、聖母戴冠など総数は約50点にものぼります。ただし、そのうちの多くは彼の弟子の手になるものとされ、自身の作はおそらく15点ほどだったと言われています。
 しかし、サン・マルコ修道院は、フィレンツェ・ルネサンス史の重要な舞台となった場所です。今日ではフラ・アンジェリコの主要作品が集められたサン・マルコ美術館となっています。

 右側で静かに瞑想するのは、ドメニコ会の創始者、聖ドミニクスです。白いトゥニカ(内衣)と、スカプラリオ(肩衣)の上に頭巾のついた黒いマントを羽織ったドミニコ会の修道服姿で描かれ、書物(おそらく福音書)をひざに置いています。頭上に星が描かれているのも聖ドミニクスを描く際の一つの印です。これは、彼の額が一種の超自然的な光を発していたとか、洗礼の際、母親が彼の額に星が降るのを見た、といった逸話に基づいているからなのです。
 瞑想する聖ドミニクスの敬虔な姿を見ると、キリストや聖母の姿も、このようにリアリティをもって幻視したのかもしれない、と思わせてくれます。

★★★★★★★
フィレンツェ、サン・マルコ修道院 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
       諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ、宮下規久朗編  日本経済新聞社 (2001-02出版)



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