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「善政の寓意」

アンブロージオ・ロレンツェッティ (1338-40年)

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 13世紀から14世紀のイタリアには、数多くの都市国家が散在していました。そんななか、北イタリアとローマを結ぶ要所に位置していた都市シエナは、隣町フィレンツェとつねに利害を争う関係にありました。
 この作品は、そのシエナの市庁舎のなかの「平和の間」に描かれた壁画です。寓意としての「善政図」であり、都市防衛のための市民の意識の結束をうたったものとされています。シエナは、同じトスカーナ地方にある都市フィレンツェと政治的、商業的にもライバルのような関係にあったわけで、市民たちは美術作品という具体的な存在を通して、自らの信仰心、連帯感を確認し、高める必要があったのです。当時のイタリアでは、個々の都市が政治的、経済的に独立した一つの国家の役割を果たしていましたから、美術もまた都市ごとにそれぞれの特徴を備えていました。自分の都市….国家を守ろうという意識は、今では考えられないほどに強いものがあったのです。

 「平和の間」は、シエナの行政や司法をつかさどる9人の評議員の椅子が置かれた部屋で、意外と広くはなく、ここに描かれた壁画「善政の寓意」、「都市と田園における善政の結果」、「悪政の寓意都市と田園におけるその結果」は絵巻物のようでありながら、飽くまでもつつましい印象で展開されています。しかし、この寓意に満ちた作品群は、その発想の豊かさと完成度の高さで、いまでもイタリア美術の最高傑作とされているのです。

 「善政の寓意」では、正しい市政に必要とされる9つの美徳の擬人像が、中央に座する白い上衣の老人を囲んでいます。この老人は、「善なる都市国家」の寓意像なのです。老人の足元にはシエナの起源に関する2つの伝説を表わす双子と雌の狼、老人の頭上には「信仰」「慈愛」「希望」の三人の天使が舞っています。そして、老人の向かって左から盾を持ちヴェールを被った「賢明」、笏と盾を持つ「剛毅」、白い服でくつろいだ姿の「平和」。向かって右には貨幣に満ちた盆と王冠を持つ「寛大」、砂時計を持つ「節制」、膝に斬り落とされた男の首を載せて剣を持つ「正義」の、それぞれ擬人像が座しています。
 また、画面の左側を見ると、天秤を持つ「正義」がちょっと離れて座しています。左の皿の天使が男の首をはね、もう一人に冠を与え、右の皿の天使が2人の男に正義の執行に必要な指揮棒と槍、金庫を与えている様子まで見ることができます。その頭上には知恵の書を持つ「知恵」、その下には鉋を持つ「共和」の寓意像が描かれ、「共和」の右からはシエナの24人の評議員が列をなして進んでいます。右端には罪人を捕らえた兵士や騎士の一群が描かれ、画面の下にはアンブロージオの署名も見ることができるのです。

 この作品は、アンブロージオの名を不朽のものにした傑作であり、みごとな寓意画であることも間違いないのですが、同時に、当時のシエナの都市と田園の風景を生き生きと見せてくれる貴重な壁画でもあり、イタリア絵画における最初の広大な風景表現でもあります。そして、作品中に見られる寓意像….殊に平和の寓意像などからは、アンブロージオが古典彫刻にも造詣が深かったことが感じられます。
 政治的理想をイメージで示しながら、アンブロージオは人々の生活をつぶさに見つめていました。鋭い画家の眼で観察しながら、市民を描く彼の目は本当に温かいものだったことがわかります。人々はふくよかで、幸せそうに生き生きとして、今もこの画面の中で都市国家シエナを愛し、生活を続けているのです。

★★★★★★★
シエナ(イタリア)、 パラッツォ・プッブリコ 蔵



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