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「受胎告知」

カルロ・クリヴェリ (1486年)

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 聖なる鳩はまっすぐに、聖母の頭に達する光線に乗って降下してきました。父なる神は、まさにその光源そのものであり、これが、神から遣わされた精霊の鳩による聖母受胎の瞬間なのです。カルロ・クリヴェリ(1430/35~1494/95年)の持つシャープな筆致、そして鮮やかな色遣いが、その場面をそれはそれは美しく表現してくれています。
 しかし、なんと細かく描き込まれた画面なのでしょうか。その豪華さにはめまいを覚えそうです。これがクリヴェリらしさだと言われてしまえばうなずくほかはないのですが、整った遠近法と、ぐっと前に描かれたマリアの部屋の内部の様子は、まるで舞台の上の書割のようです。そこには、ごく当たり前の人々の生活がありながら、非現実的な光景が広がります。

 マリアの家の2階のテラスにはクジャクが尾を垂れ、そこからさらに目を上げれば、たくさんの鳩が止まり木に羽を休めているのがわかります。向かいの家では階段の踊り場で何事か語り合う男たち、そして彼らの足元には、突然現れた大天使に驚いているのでしょうか、小さな女の子がそっとこちらを覗き見ています。
 しかし、ここで私たちの目は路地の奧にぐっと引き込まれます。奧へ奧へ、どこまで行くのだろうと不安になるような臨場感は、同時代の遠近法の巨匠ピエロ・デラ・フランチェスカの作品たちを思わせます。絢爛豪華な装飾性を特徴とする画家として、ビザンティン風金地背景を得意としたクリヴェリでしたが、実は、最新の遠近法理論や壮大な古典芸術にも精通していたことをうかがわせてくれます。

 クリヴェリは、不運な出来事のために若いころはイストリアに追いやられ、1468年からこの世を去るまではずっとマルケ地方で暮らしました。しかし考えてみれば、彼の精巧な装飾モティーフを思わせる独創性は、まさにこの辺境の地だからこそ開花したものだったのかもしれません。
 生涯の大半を過ごしたアスコリ・ピチェーノの町に与えられた自治権を記念して、同市のアヌンツィアータ聖堂のために注文されたこの祭壇画は、クリヴェリの最高傑作といわれています。大天使ガブリエルの横には、同市の守護聖人、聖エミグディウスが重そうな法衣を着けた姿で描かれています。

★★★★★★★
ロンドン、 ナショナル・ギャラリー 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
       諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
       諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)



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