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「十字架上のキリストに抱かれる聖ベルナルドゥス」

フランシスコ・リバルタ  (1625-27年)

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 磔刑像の前に跪き、祈りを捧げる聖ベルナルドゥス。すると、キリストの腕が十字架を離れ、彼に向かって静かに差し伸べられたのです。抱擁される聖ベルナルドゥスの法悦の表情は、信仰を持たぬ身には少し不思議な感覚です。しかし、聖人の限りない安らぎは確かに画面のこちら側にもふんわりと伝わり、それを見守る私たちもまた、あらがい難い幸福感に満たされていきます。

 聖ベルナルドゥスはシトー会の修道士であり、神学者でもある人物で、12世紀における傑出した精神的指導者でもありました。そして、彼をテーマとして描くとき、彼の神秘的性格を強調することが多く、この作品にも見られるようにシトー会の白い修道服姿で描かれるのが普通です。清貧を旨とし、三度にわたって司祭職を辞退したと言われる聖ベルナルドゥスにふさわしく、よけいな装飾を何も持たない、清らかな姿です。
 しかし、この作品を目の前にしたとき、まず強烈に感じるのがカラヴァッジオ的な明暗表現かも知れません。リバルタはまさに、「バレンシアのカラヴァジスムの創始者」と言われた画家だったのです。地中海に面するスペイン東部の交易都市バレンシアは、イタリアとのつながりの深いところです。リバルタがイタリアに行ったという確実な記録はないのですが、近年、彼の署名があるカラヴァッジオ作品の模写が発見されたことがわかっていますから、そのあたりからもリバルタのカラヴァッジオへの傾倒を感じることができそうです。

 しかし、リバルタは単にカラヴァッジオ的であるにとどまった画家ではありませんでした。この奇跡の場面に光を集中させた作品からは、聖なる存在に直接触れるという身体的実感までも豊かに伝わり、白い修道服の柔らかい陰影の描写には、聖人の体温を含んだ布地の質感がみごとに実感されます。初期のころにはマニエリスム的傾向が強かったものの、バレンシアに来てから円熟期を迎えたリバルタは、情感豊かなバロック的宗教表現を完全に自分のものにしているのがわかります。そして、キリストの顔があえて影に落とされているのも、やさしく密やかなリバルタの精神のあらわれのように感じられるのです。
 バレンシアは17世紀、リバルタによってバロックの新しい時代を迎え、やがてイタリアに渡って大きな成功をおさめるリベラという大画家を生み出すことになります。リバルタはリベラの師でした。彼の、より平明で率直な信仰心の表現は、現代に生きる私たちの心にもとても自然に、穏やかに流れ込んでくるようです。  

★★★★★★★
マドリード、 プラド美術館 蔵



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