• ごあいさつ
  • What's New
  • 私の好きな絵
  • 私の好きな美術館
  • 全国の美術館への旅

「侍女に囲まれたウジェニー皇后の肖像」

フランツ・ヴィンターハルター (1855年)

ジャンプ

ここをクリックすると、作品のある
「Wikipedia.org/」のページにリンクします。

 夢のように美しい女性たちが集う華やかな画面です。豪華な衣装に身を包んだ貴婦人たちの庭園での集いでしょうか。ただ、ほんの少し緊張感が漂うのは、中心でバラの花を手にとる女性がフランス皇帝ナポレオン3世の皇后ウジェニーだからかもしれません。皇后を囲むのは侍女たち。彼女たちは、最上級の気遣いをもってモデルを務めているはずです。

 ウジェニーはスペイン貴族の息女であり、姉とともにその美しさと高い教養で知られていました。父親譲りの勇敢さと彼女の美しさの評判はフランスだけではなく、ヨーロッパ各国に伝わっていました。当然、各国の王侯貴族から求婚されていましたが、そのすべてを断り続けたことで「鉄の処女」とさえ呼ばれるようになります。しかし1848年に第二共和政の大統領になったルイ=ナポレオン・ボナパルト主催の舞踏会で未来の皇帝と出会ったことで、ウジェニーの自由な独身生活は終止符を打ったのです。
 ただし、フランス皇帝ナポレオン3世とノートルダム大聖堂で結婚式を挙げたにもかかわらず、ヴィクトリア女王の「下品で気がきかない縁組」という公式コメントでもわかるように、ウジェニーはボナパルト家にふさわしい嫁とは認識されなかったようです。言うなれば家柄が違い過ぎる…ということのようです。
 ところが1855年、イギリス王室から招待されたウジェニーは、このヴィクトリア女王にすっかり気に入られてしまったのです。その後2人は、生涯の友人となりました。これは才気煥発、人の気を逸らさないウジェニーの人柄が大きかったに違いありません。そしてこのヴィクトリア女王によって、この絵画の作者である画家フランツ・ヴィンターハルターを紹介されたのです。彼はウジェニーの多くの肖像画を残しています。
 ウジェニーはその美貌、気品と上品なマナーによって、皇帝支配の輝きに貢献したと言われています。さらに当時のファッションリーダーでもあったことは注目すべきことです。彼女が初めて身につけた新しい骨組みのクリノリンと呼ばれる籠形ペチコートは、ヨーロッパの宮邸ファッションを席巻しました。ウジェニーの洗練されたセンスのよさもまた、多くの女性たちを魅了したのです。そんな比類なく豪華で美しいウジェニーの周りで、女性たちはバラの花も霞んでしまいそうな皇后の魅力に圧倒されているのかもしれません。

 ところで、この作品を描いたフランツ・クサーヴァー・ヴィンターハルター(1805年4月20日-1873年7月8日)といえば、「皇妃エリーザベトの肖像」が日本でも知られています。彼は、モデルにうり二つに描いているようで実物以上の魅力を引き出し、公式の装束や流行のファッションで華を添えることの巧みな王侯貴族専門の肖像画家でした。その滑らかな絵肌、緻密な描写力は他の追随を許さないものだったといえます。
 ただ、ヴィンターハルター自身は王家からの肖像画の依頼を一時的な寄り道と考えていました。いずれは歴史画、宗教画などの大きな主題の絵画や、学術的に評価される分野を本格的に模索していたのです。しかし結局は肖像画家としての成功に引きずられ、そのまま画家人生を歩むこととなります。ヴィンターハルターにとって肖像画こそが成功と富を得るための、そして王侯貴族の後援を受け国際的著名人となっていくための重要なツールとなったのです。
 ナポレオン3世即位後、ヴィンターハルターの人気はさらに上昇し、フランス第二帝政下でフランス皇室の宮廷主席画家となりました。もちろん美しいウジェニー皇后は一番のモデルとなり、1855年、ヴィンターハルター畢生の傑作「侍女に囲まれたウジェニー皇后の肖像」が制作されたのです。この作品で画家は、森の木陰にくつろぎ、侍女たちと仲良く輪になって花を集める美しくも親しみ深いフランス皇后を描き出しました。この絵は賞賛を浴び、1855年の万国博覧会にも展示されています。そして、今なおヴィンターハルターの代表作として燦然と輝く300×402㎝の大作なのです。

★★★★★★★
パリ、 コンピエーニュ城美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>

  ◎ビジュアル年表で読む 西洋絵画
       イアン・ザクゼック他著  日経ナショナルジオグラフィック社 (2014-9-11出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎世界美術家大全
       ロバート・カミング著 岡部昌幸 (監修)  日東書院本社 (2015-11-5出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)



page top