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「モルト・フォンテーヌの思い出」

カミーユ・コロー (1864年)

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 幼い妹たちにせがまれたのでしょう。少女が傍らの木に腕を伸ばし、一生懸命背伸びをしています。
 小鳥の巣から卵をもらおうとしてでもいるのでしょうか。二人の妹たちがはしゃぐ様子とは対照的に、慎重に、慎重に・・・と、少女の背筋には緊張感が漂っています。
 それにしても、まるで髪が風になびくように湖に枝を広げる大木のみごとさ、そして、光を含んでけぶるように描かれた一枚一枚の葉のやさしさ・・・。本当にコローらしい、物語のような世界です。

 この作品の舞台であるモルトフォンテーヌは、パリの北東50キロにある、湖の多い美しい土地です。コローは、この地に対する深い思い入れとともに、10点以上もの風景画を描いていますが、その中でもこの「モルトフォンテーヌの思い出」はナポレオン3世に買い上げられて、その居城を長く飾っていたこともあって特に有名です。

 コローの風景画を見ていると、いつも不思議な気持ちにさせられます。現実の場所を描いているのに、コローの手にかかると、そこが夢の世界になってしまうということです。今ここに、突然妖精が現れても少しも不思議ではありません。
 そう言えば、テオフィル・ゴーティエは
「彼はニンフたちの膝に抱かれて育ったのである」
と語っています。しかも、コロー本人も「実際そのとおりです」と答えているのです。
 コローの両親は裕福なブティックの経営者で、母は婦人用の帽子のデザイナーをしている美しい人でしたし、コロー自身は姉と妹に囲まれて、本当にオシャレな女性たちの中で育ったのです。しかも店は上流階級の女性客のサロンのようでしたし、母のマリー・フランソワーズはその上流階級の花形だったのです。

 そんな優雅な女性たちの中で成長したコローの作品が、どれもごく自然な優しさと美しさに満ちているのは、当然のことだったかも知れません。
 この作品の中の少女も、もしかすると、落ちてしまった小鳥の卵を、そっと巣に返してあげているのかも知れません。そんな彼女の背中を、コローの温かい視線がそっと支えているようです。

★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館蔵



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