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「タルスに上陸するクレオパトラのいる風景」

クロード・ロラン (1643年)

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 厳格な透視図法で描かれた壮麗な建物、豪華な船が画面に威厳を与え、画家の興味がこの壮大な海景にこそあったことを感じさせます。しかし、この作品の主題は飽くまでも、エジプトのプトレマイオス王朝最後の女王クレオパトラが、古代ローマの将軍アントニウスに会うために小アジア(現在のトルコ)のタルコス港に上陸した場面を描いたものなのです。
 前景やや右側には6人の女性に囲まれ、将校デリウスを従えたエジプトの独裁者クレオパトラの姿が見え、さらにその右、宮殿の前に立って彼女を迎えているのはアントニウスです。クレオパトラはこの後、権力への欲望からこのローマの将軍を誘惑し、7年後に二人は結婚することとなります。紀元前41年に実際に起こった、歴史の中に位置する重要な場面でありながら、このように英雄的で壮大な風景の中に描き込まれると、人はなんと小さな存在となってしまうのでしょう。太陽を浴びて輝く雲の美しさ、まぶしさが、時間も歴史もすべてを呑み込んでいってしまいそうで、鑑賞する私たちはその感覚にいつの間にか酔いしれてしまうのです。

 風景画の中でも特に「理想風景」と呼ばれる、こうした古典的風景画のジャンルを完成させたのがニコラ・プッサンとクロード・ロランでした。プッサンが風景画のなかに知的で厳粛な要素を加えて英雄的様式と言われたのに対し、クロードは自然そのものを入念に観察し、みごとに模倣し得た画家と言えます。非常に初期のころから、太陽そのものをカンヴァスに表し、画面の中から輝きを放つといった効果を試みるなど、クロードの光に対する追究はとどまることがありませんでした。
 やがて、プッサンに触発され、古代ローマを思わせる勇壮な建築物の描き込まれた壮大な風景も描くようになりますが、クロードの真のテーマは光….. そして色彩によって詩的に風景を表現することにあったのです。詩の高さにまで達した彼の光は形態の表面で微妙な変化を見せながら、樹木や建物、廃墟、柱廊などに照り映え、ますます精妙で鋭敏に表現され続けました。

 クロードの作品は、18世紀から19世紀のイギリスで、特に好まれました。この時代のイギリス庭園のなかにはクロードの絵を参考に構想されたものも数多いといいます。そして、熱心な蒐集家によって愛されただけでなく、ウィルソンやターナーが強い影響を受けたことも知られています。
 画面中央の輝く雲は、クロードの光そのものでした。失われた時代の晴朗な感覚を喚起するように、クロードの内側からまさに放たれた光そのものだったのです。

★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館 蔵



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