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「ソロモンとシバの女王」

コンラート・ヴィッツ (1437年)

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 紀元前900年のころ、15歳で即位した利発なシバの女王は、イスラエルの三代目の王ソロモンの名声を聞き、旅行者たちの話すソロモン王の叡知や宮廷の立派な佇まいを我が目で確かめたいという好奇心から、大勢のお供を連れ、香料や多くの金、宝石をラクダに積んでエルサレムにやって来ました。しかし、もちろんそれは表向きの理由であり、実際は難問をもって彼を試したいと考えたのです。
 女王を迎えたソロモン王は、返礼としてその豊かなお土産に見合う贈り物をし、女王の望みにまかせて彼女の浴びせたすべての問いに解答を与えました。王に分からないこと、答えられないことは一つもなかったのです。シバの女王は、ソロモンの知恵と、彼の宮殿、食卓の料理、家臣や給仕たちの装いや丁重さ、そして王が主の神殿に捧げる捧げ物を目の当たりにして、あらためて息を呑み、感服の意を表しました。
 「私はここに来て、自分の目で見るまでは、あなたの評判を信じてはいませんでした。しかし、私に知らされていたことは実際の半分にも及ばないものであり、あなたの知恵と富は噂に聞いていたことを遥かに越えていました。あなたの叡知に接していられる臣民や家臣は幸せです。あなたをイスラエルの王位に就けることを望んだ神、主は讃えられるでしょう。そして、主はとこしえにイスラエルを愛するでしょう」。

 神から授かったソロモンの知恵は、数々の名裁きとして聖書の中にもあらわれていますが、ソロモンの叡知を確認するために外国から訪れた人も多かったようです。その中でも有名なシバの女王との対面は、さまざまな画家によって描かれていますが、15世紀半ばに主にスイスで活動したドイツの画家コンラート・ヴィッツ(1400頃-1444/47年)は、このように美しく、そして可愛らしく親密な雰囲気の中に二人を描きました。
 豪華な贈り物を手渡そうとするシバの女王はまっ白な布で頭部を覆い、赤い衣、青いマントは聖母マリアを連想させます。そして、一方のソロモン王の緑の衣装の光沢、質感はみごとで、その量感豊かな衣文、角張った立体感は、まさにヴィッツの特徴的な表現方法です。画家は、遠近法的な絵画空間の中に、こうした立体感を強調することに特に強い意識を持っていたように感じられます。

 15世紀前半のドイツの絵画はとても明るく、甘美なものでした。しかしやがてヴィッツの活躍する頃になると、新しい写実が生まれてきます。それは、きらめく波、透明感のある水面などの生き生きした自然表現でした。ヴィッツもまた、風景画にみごとな一石を投じた画家の一人でしたが、一方でこうした室内の表現にも、緻密で美しい手腕を発揮してくれています。ソロモン王の衣装の唐草に似た地模様が金色の壁にも呼応し、見つめるほどにその美しさには溜め息が出ます。隅々にまで心をこめた画家の技が満ち、みごとな画面となっているのです。

 シバ王国は、現在のイエメンの首都サアナの北東あたりに、乳香の生産などで富を築き、栄えたと考えられています。今では、遺跡も殆ど砂漠に埋もれてしまいましたが、魅力あふれるシバの女王とソロモン王の恋の物語は、今も人々のなかに変わることなく生き続けているのです。

★★★★★★★
ベルリン国立美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎シバの女王―砂に埋もれた古代王国の謎
        ニコラス・クラップ著 矢島文夫監修 柴田裕之訳  新潮社 (1996-12-01出版)
  ◎パレスチナ―砂に沈む太陽
        並河万里著  中央公論社 (1991-06-10出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)



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