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「ソクラテスの死」

ジャック・ルイ・ダヴィッド(1787年)

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 今、まさに毒入りの盃に手を伸ばそうとするソクラテスに、ある者はすがり、ある者は天を仰ぎ、また、目を伏せます。
 ダヴィッドの描く世界は、ある意味ではまったくリアリティーがなく、大時代的で、舞台上の演技を見ているようで、ちょっと笑ってしまいそうなところもあるのですが、その大げさぶりがまたいいのだという気がします。

 ご存じのように、ソクラテスはギリシャの大哲学者であり、幾何学、天文学など、あらゆる教養を積んだ天才です。ところが、徳即知識という倫理観を打ち立てた彼は何一つ書き残すことをしなかったため、その哲学思想は、弟子のプラトンやアリストテレスらの著述によってのみ知ることができます。そのプラトンの伝える「ソクラテスの死」をそのまま絵画にしたような作品がこれです。
 晩年、告発を受けて獄中に囚われ、毒を仰いで自らの主義に殉じるソクラテスに、居合わせた人たちはただ嘆き悲しむばかりです。かけがえのない生命への哀惜と苛立ちが、静止した画面に息づいています。

 あまりにも劇的で英雄的な絵であるために圧倒されますが、やがて来たるべきフランス革命による思想の復活を予告した、ダヴィッドの充実した心理状態を示した傑作だと思います。いわゆるアカデミズムの権威をほしいままにした新古典主義絵画の創始者たるダヴィッドの、面目躍如たる逸品ではないでしょうか。

★★★★★★★
ニューヨーク、メトロポリタン美術館蔵



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