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「ジュスティーヌ・ディュール」

トゥールーズ・ロートレック (1889-90年)

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「WebMuseum, Paris」のページにリンクします。

 視線を彼方へ漂わせるモデルの、今にも涙がこぼれてきそうな眼と赤いスカーフが印象的な作品です。
 名門貴族の一人息子だったロートレックは、このモンマルトルのペール・ラフォレの庭園の片隅で、この時期、しばしば人物を描いています。
 しかし、自然光のもとでの制作はこの時期だけで、しだいに人工光の中の人物を描くようになっていきます。ロートレックにとって、自然はあまり興味の対象にはなり得なかったようです。
 そのためか、モデルの顔以外の部分はサッサッと線描で処理されていて、そのため、見る者の目は彼女の顔面に、そして内面に集中していきます。

 ロートレックは14歳のころ、床で転んだり、溝に落ちたりする事故が重なって左右の足を骨折し、以後、下半身の成長が止まってしまいます。しかし、乗馬などのスポーツに親しみ、14歳にもなっていた健康な少年が、転んだくらいで両足を折り、しかもその成長が止まってしまったというのは考えてみれば不思議な話で、実はロートレック家にしばしば見られた血族結婚が、彼の骨を弱くした原因ではないかとも言われています。
 ともあれ、そうした苛酷な肉体的条件を負わされたロートレックが選んだ表現手段が絵画であったわけです。

 彼は生涯、描きたいものだけしか描きませんでした。ですから、この作品のような外光のもとでの制作をしなくなるには、彼なりの理由があったようです。
 15歳の時の療養先からの手紙の中でロートレックは、
「ぼくのメニューはたいした変化はありません。馬か水夫、そのどちらかなのです。風景ときたら、ぼくの手にはあまってしまう。影さえつけることができないのです。ぼくの樹木はホウレン草なんです。地中海、こいつはとても描けたものではない。だって、これはあまりにも美しいから」
と書いています。
 あまりにも美しいもの・・・それはおそらく地中海だけのことではなく、外光のまぶしいきらめきであったのではないでしょうか。彼の虚弱な体質に、沸き立つような自然の光は強すぎたのかも知れません。

 そういう意味では、数少ない外光の中の人物を描いたこの作品は、モデルの外見を描きながら、光のまぶしさを避けるように、画家の視線は彼女の内面を見つめているのです。

★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館蔵



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