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「サン・マルコ広場」

カナレット  (1735-40年)

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 整然と計算された几帳面な画面です。しかし、風がわたり、陽光が降り注ぐ….なんと美しい景観画なのでしょうか。これほど整っているのに、この絵には少しの冷酷さもありません。暖かさ、微笑みが優しく伝わってくるばかりです。

 この作品は、当時、18世紀ヴェネツィア最高の景観画家とうたわれたカナレットの手になるもので、当時の人々の風俗、露店で賑わうサン・マルコ広場ののどかな様子が驚くほどに生き生きと伝わってきます。午後3時過ぎくらいの時間帯でしょうか….ゆっくりと傾き始めた太陽が長い影をつくり始め、鐘楼や建物、人々の足もとに正確に伸びているのがわかります。
 さらにこの作品を見つめたとき、カナレットという画家の、非常に冷静で知的な観察眼に再び驚かされます。17世紀のデルフトの画家フェルメールを思わせるような、細部にわたる緻密な描写、そして光に照らし出された建物の壁や屋根、また露店の日よけや人々の羽織るマントの持つ質感まで、なんと微妙に描き分けていることでしょうか。そこには、まさに光の粒が……フェルメールの場合は、たしかにその粒が目に見えるように描かれているのですが……カナレットの場合は、そのきらめきの存在を見る側が感覚で受けとめてしまえるように、光の粒を内包して描いているように見えます。そんなところにも、カナレットが陽の光を、自然の持つ輝かしい息吹きを、どれほど愛した画家であったか、私たちは深く感得するのです。

 そもそも、現実の光景を正確に描写した景観画というジャンルは、鑑賞者に詩的な感興を与える風景画とは明らかに区別されたものでした。ある意味で、ありのままが重視される景観画に、画家の内的創造力、微妙な芸術的感覚は要求されません。ですから、景観画は一段低い絵画と見なされていました。
 しかし、ヨーロッパ諸国からの旅行者の増加に伴い、景観画の需要は増えていきます。要するに、旅行者は「絵葉書」を求めたからです。そんな時代に、このように輝きと色彩を感じさせる、自由闊達なタッチを持ったカナレットが登場したのです。

 後年、カナレットの作風はしだいに型にはまった機械的なものになっていき、名声も急速に衰えたといいます。しかし、そうなってからも、彼の作品は単なる事実の記録と言ってしまうにはあまりに見事で、他の画家を大きくしのぐものだったのです。
 サン・マルコ広場をはじめ、パラッツォ・ドゥカーレ、大運河やカーニヴァルのテーマを得意としたカナレットの、もっとも力にあふれ、蒐集家を喜ばせた時期の、晴れ晴れとしたサン・マルコ広場です。

★★★★★★★
ワシントン、 ナショナルギャラリー 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈上〉〈下〉
        塩野七生著  中央公論社 (1989-08-10出版)
  ◎歴史の都の物語―世界史をいろどった21の都市〈下〉
        クリストファー・ヒッバート著  原書房 (1992-08-03出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修   美術出版社 (1997-05-20出版)  



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