• ごあいさつ
  • What's New
  • 私の好きな絵
  • 私の好きな美術館
  • 全国の美術館への旅

「お茶のテーブルについた婦人」

メアリ・カサット  (1883-85年)

ジャンプ

ここをクリックすると、作品のある
「CGFA」のページにリンクします。

 午後のお茶に招かれた婦人は、威厳のある表情で茶卓に着いたところです。ブルーの瞳が美しく、彼女の居る世界は彼女の瞳の色そのままの、海の底のような静かで淡いブルーに統一されているようです。

 女性や子どもたちの日常的な優しい情景を描くことを得意としたカサットは、愛情あふれる母子像とともに、お茶を飲む女性もまた多くテーマに選んでいます。彼女たちは不思議なくらいに画家の視線を意識することなく、自らの世界に入り込んだ様子で描かれることが多いのですが、この婦人もまた、視線を彼女の思う方向へ投げ、楽しい会話を楽しむという雰囲気とは何か違う、非常に静かで聖なる存在として坐しているように見えます。
 それにしても、婦人の髪にあしらわれたレース、彼女の手許に並ぶ茶器、そこへ伸ばされた指の動き、袖口からのぞくレースの飾り…..そのどれもが、なんと繊細に表現されていることでしょうか。いまにもはかなく壊れてしまいそうな、薄い薄いガラスの破片のように、それらは画面の中にちりばめられているようです。そんな繊細さが、ヘンリー・ジェイムズの小説に描かれる上流社会の洗練、優雅さ…と表現される所以かも知れません。資産家の娘であったカサットは、確かに作品のなかに、彼女にしか理解し、表現し得ない世界を持っていたように思います。

 カサットはペンシルヴェニア美術アカデミーを卒業後、主にパリで仕事をし、印象主義運動に参加しましたが、決して主要メンバーにはなりませんでした。ただ、一人の若い女性として、思慕の念を抱き続けていたドガの勧めで印象派展の第4回展から参加したことが、現在にあってカサットが印象派の画家と見なされる大きな理由かも知れません。
 しかし、彼女の方向は、印象主義者たちとは似て非なるものだったと言っていいと思います。カサットの優れた才能は、もっと過去の作家たち….アングルやコレッジオに学ぶことによっていっそうの進展をみせました。また、90年のエコール・デ・ボザールで開かれた浮世絵展で出会った日本の様式に対する興味から発展して、独自のデザイン的な感性も身につけていったのです。カサットは、着実に堅固な構成、より力強い形態へと自らの世界を構築していった画家だったのです。

 この青く美しい世界に憩う婦人は、大切な友人のロバート・ムーア・リドル夫人。夢のように繊細で、今にも壊れてしまいそうなこの表現は、カサットの強い自信に裏打ちされた洗練の極みと言えるのかも知れません。  

★★★★★★★
ニューヨーク、 メトロポリタン美術館 蔵



page top