この作品は、銀行家組合の仲介人グアスパッレ・ラーミの依頼でサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂の祭壇画として描かれたもので、ボッティチェリのもっとも重要な作品とされています。
中央で、幼な児イエスを抱いた若く美しいマリアにくらべ年をとり過ぎている感じの聖ヨセフが居眠りをし、左手には聖母子の前にひざまずく博士の一人が描かれています。
マリアの膝でたわむれるイエスを、うやうやしくその手でささえようとする博士の周りでは、たくさんの人々がそれぞれの表情で見守り、なかなかにぎやかな「東方三博士の礼拝」です。
この礼拝の場面には、当時のメディチ家の人々をはじめとした、著名な人文学者たちが描きこまれていると言われています。
フィレンツェきっての教養人でもあったロレンツォ・デ・メディチの手厚い庇護を受けたボッティチェリは、その恩に報いるため、メディチ家のために最善を尽くしたに違いありません。ですから、こうした肖像を作品の中にとり入れるという試みも、ロレンツォとメディチ家への日ごろの感謝のあらわれであり、依頼主からの注文でもあったのでしょう。
作品中の人物は、当時のフィレンツェ人であれば簡単に識別できました。画面向かって左端で胸を張るのはジュリアーノ・デ・メディチ、彼にもたれかかるのは詩人ポリツィアーノ、その横にいるのは博識な哲学者であり人文学者であったジョヴァンニ・ピーコ・デッラ・ミランドラであると言われています。
さらに中央の幼子イエスの足元に脆いているのは老コジモ、画面中央で赤いマントの後ろ姿の男性はピエロ・イル・ゴットーゾ、そして短く黒い衣裳で横を向いて立っているのはロレンツォ・イル・マニフーィコとされています。
そして、ボッティチェリはみずからの自画像を右端に描いています。ルネサンスの頃まで、作品に作者の署名を入れることは少なかったため、作者自身を群像の中に描くことは割と珍しくないことでした。
まだ30代になったばかりのボッティチェリですが、あの美しいヴィーナスを描いた画家はどんな人?…という興味は、ここで満足されることになります。
★★★★★★★
フィレンツェ、 ウフィッツィ美術館蔵