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「ヴォワザン集落の入口」

カミーユ・ピサロ (1872年)

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 陽光が降り注ぐ穏やかな初春、一頭の馬がひく荷馬車が、その光を楽しむように、ゆっくりと農道を進んでいます。道いっぱいに長く影を落とす木々の葉はまだ芽を出していなくて、そのほっそりとした姿が両脇に身を寄せるようにして、馬車に道をゆずっています。のどかで、静かで、しかも夢とは違う現実の風景で・・・。

 ピサロの絵を見ていて、しばしば願うのは、彼の絵の中の人物の一人になりたい・・・ということです。そうして、身も心も精一杯伸びをして、ゆっくり頬づえをついて眠ってみたい・・・。ピサロの作品には、いつもそんなやさしい幸福感が漂っています。

 ピサロは、印象主義の代表的な画家と言われています。しかし、ユダヤ人の家系に生まれた彼は、最終的には印象主義の教義を乗り越えるような芸術運動にも興味を示していったらしく、そのため、彼の作品は、他の印象派の画家にはない政治的な関心に支配されていたと言われています。
 同時代の若い画家たちは、ピサロのことを「主よ」とか「モーゼよ」とか呼んでいたらしく、彼には完全に自立した人生観と、芸術に対する誠実な忠誠心とでも呼べるようなものが内在していたようです。若い画家たちへの面倒見も良かったらしく、こうした人柄が多くの心奉者を惹きつけ、ピサロは印象派の中心的人物だったのです。
 彼と親交の篤かったゴーギャンなどは、
「ピサロは非常に複雑な、としか記述できないような性質を隠し持っていた」
と記しているくらいですから、あの個性の強いゴーギャンにそこまで言わせるか・・・と思うと、つくづくピサロという人物の奥深い精神性を想ってしまうのです。

 そう考えて、この作品の澄明さを見るとき、一見何気ない、この穏やかな絵の中に、ピサロの自信と落ち着きと、そして構図の確かさとをあらためて感じてしまうのです。

★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館蔵



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