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「リトル・ホワイト・ガール : 白のシンフォニーNo.2」

ジェームス・ホイッスラー (1863 – 64年)

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 鏡に寄り添い、想いにふける彼女の実像と鏡像の落差はどうしたことでしょう。健康的でつややかなプロフィールの向こう側に、ものうげに曇って疲れきった表情の別の女性が、心なしか影も薄く、たたずんでいます。

 この作品の女性に、愛の甘苦に翻弄される美しい一輪の白薔薇を感じたスウィンバーンは、次のような詩をホイッスラーに送っています。
「雪よ降れ、空高く / 風よ稲妻よひびきわたれ / わたしは自分の顔をじっと見つめ / 輝くばかりの髪の色に目をみはる / 心を高鳴らせるのも悲しみにうちふさぐのも / ただ葉と花びらの愛に息づく / 胸の薔薇だけ」(第4連)
 この詩をホイッスラーは、作品の額縁のうえに貼り付け、
「詩人から画家に与えられた類無く優美な捧げもの」
と高く評価しましたが、そのスウィンバーンもまた、
「物憂げに自分の鏡像を見つめている顔に、悲しみと喜びの入り交じった神秘を見出した」
と、実像と鏡像の違いを感じ取っていました。

 そこには、モデルと画家にだけ通じる心理的な、非常に個人的な理由があったと言われています。この作品のモデルは『ホワイト・ガール』のときと同様、ホイッスラーの愛人ジョー・ヒファーナンという女性でしたが、当時、画家とモデルの関係は非常に難しい段階にありました。ジョーをはさんでの他の画家との関係の悪化、ジョーをめぐっての彼女の肉親との軋轢など、ホイッスラーには心安まる暇もなく、またジョーにしても、先行きの不安に苛まれて非常に不安定な時期でした。
 そこで、画中のジョーに、あえて結婚指輪をつけさせ、ヴィクトリア朝においては家庭的幸福の象徴とされた暖炉の前に立たせ、彼女のこころをなごませようと図ったのではないかと思われます。

 そんな少々面倒な事情に、おそらくはそうとう機嫌の悪かったであろうホイッスラーの鬱憤はさておき、『リトル・ホワイト・ガール』は、今までにない流麗な筆致で描かれた、彼の代表作品と言えると思います。
 前作の『ホワイト・ガール』に比較して、画面に占める白の割合は減っていますが、それにもかかわらず、ジョーの手元に置かれた鮮やかな朱塗りの椀や美しいピンクのアザレアの花、そして日本のうちわなどが彩りを添えることによって、彼女のふんわりした白いドレスをいっそう引き立て、鮮やかで透明感のある瑞々しい白を強く印象づけてくれるのです。

 絵は、とにかく絵として純粋に見るべき…という唯美主義的傾向の強かったホイッスラーの、非常に調和のとれた美しい作品です。

★★★★★★★
ロンドン 、 テイト・ギャラリー蔵



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