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「エジプト逃避途上の休息」

ルカス・クラーナハ (1504年)

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 穏やかであたたかい聖家族の休息のとき…。しかし、このとき、マリアとヨセフは大切な宝物イエスを守って、エジプトへの逃避途上だったのです。
 エルサレムでは、救世主誕生の報に心穏やかでないヘロデ王が、ついに2歳以下の幼児を皆殺しにせよとの命令を下します。これが有名な「ヘロデ王の幼児虐殺」なのです。しかし、「幼な子と母親を連れてエジプトへ逃れよ」という天使のお告げを夢のなかで受けていたヨハネは、幼いイエスとマリアを伴い、一瞬早くエジプト目指して旅立っていたのです。

 イエスを抱いたマリアをロバに乗せ、ヨセフは歩いて旅を続けました。その情景は、ジオットのように、聖家族の実際の厳しい旅の様子を描いたものが一般的なのですが、一方、この作品のようにその途上の休息を主題としたものは、次第に説話から独立して礼拝図としても用いられるようになりました。
 その表現は画家によって本当にさまざまなのですが、クラーナハの場合は北方ドイツの森林を背景に、天使に囲まれてくつろぐ聖家族を描いています。三人の足元には泉があり、彼らはゆっくりと渇きを癒しているのです。これは、渇いた彼らのために清水が湧き出たという伝説からきています。天使の中には、もうだいぶ成長した雰囲気の少女も混じっていて、華やいだ明るい声が聞えてくるようですが、これほど賑やかな休息図もちょっと珍しいかも知れません。幼児キリストもすっかり喜んで、お友達になれそうな天使の差し出す緑の葉を、一生懸命につかもうとしています。聖母の衣装もみごとな赤一色….これまた、なんとも華やかな雰囲気で、後方に立つヨハネも、ちょっとダンディにキメている様子が、宮廷画家となるクラーナハを予感させます。

 1500年頃のウィーンに突如現れた画家クラーナハは、いわゆるドナウ派の画風で次々に傑作を生み出しました。やがて、ザクセン選帝侯フリードリヒ賢公に招かれてヴィッテンベルクの宮廷画家となってしまうと、その作風はがらっと変化するのですが、これはその前…森の国ドイツの画家らしい風景表現を見せています。この伝統はやがて、同じドナウ派のアルトドルファーに受け継がれていきます。
 しかし、クラーナハが、この緑豊かな風景表現から『風景の中のヴィーナス』などの官能的表現へ作風を変えてしまったことは、何かとても寂しく残念な気もするのです。ところが、よく見ると、ヴィーナスの後ろには実はうっそうとした森….ヴィーナスは森の精のような趣きです。そこでやっと、クラーナハの中に流れるドナウ派の血を感じることができて、少し嬉しくなってしまったりするのです。

 この後、残虐なヘロデ王の死が天使によって告げられ、聖家族が再び故国への旅の途に着くのは、それから7年の後でした。そして
「彼はナザレ人と呼ばれるだろう」
という旧約の預言者の言葉どおり、彼らはガリラヤのナザレに移り住むのです。

★★★★★★★
ベルリン、 ダーレム美術館 蔵



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