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「金色の魚」

パウル・クレー (1925年)

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 自らの内なる光で輝く一匹の魚・・・彼は本当に魚なのでしょうか。
 深海を象徴したダークブルーの中で輝く彼は、しかし、圧倒的な風格で他の魚を圧し、しかもどこか超然と泳ぎ続けています。彼の輝きは熱を帯びたものではなく、また人工の照明のように光源となってあたりを照らすでもなく、彼自身が自らの内なる光によって輝き続けているのです。他のどの魚もおよぶことのできない高貴な魚・・・。しかし、彼の神秘的な美しさは、彼を永遠に孤独な存在とさせてしまっているかも知れません。

 魚は、鳥や蛇などと並んでクレーの作品にしばしば登場する動物の一つです。少年のころ、ナポリの水族館の水槽の前で魚たちの魔術のような美しさにうたれたクレーにとって、それ以来、魚は彼の重要なモチーフの一つとなったようです。
 そのときの感想を、クレーは次のように書き記しています。
「水族館は非常に面白い。とりわけ、表情豊かに居座っているタコ・ヒトデ・貝といった連中は。それから険しい目つきと巨大な口、ポケットのようなかみ袋を持った怪物どもも。他の連中は、偏見にとらわれた人間のように、耳まで砂に埋もれている。・・・」

 魚をモチーフとした作品は、すでに1901年頃、つまりクレーが20歳を過ぎた頃から最晩年の1940年にいたるまで続きます。しかし重要なのは、この作品に限らず、クレー自身の芸術に欠くことのできないキリスト教的宗教性ではないでしょうか。この作品の金の鱗を持つ魚もまた、「キリスト降誕」におけるみどり児イエスの姿そのままに神秘的に輝き、生まれながらの王者の風格を見せています。
 「見ることすなわち神の啓示であり、神の工場への洞察です。そこに、自然の胎内に創造の秘密があるのです」
と語り、自然の中に神を見、敬虔な態度で自然と向き合ったクレーの心が彼に・・・この金の魚に象徴されているようです。

 バウハウスで教鞭を執っているころの、魚をテーマとしたはずせない傑作です。  

★★★★★★★
ハンブルグ美術館蔵



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