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「花咲くアーモンドの木」

ピエール・ボナール (1946-47年)

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 白い花をいっぱいにつけた大きなアーモンドの木です。空があまりにも濃く深い青なので、もしかすると今は、夜なのかもしれません。背景の濃さのせいで、花の白さが際立ち、輝きをみせています。

 ピエール・ボナール(1867-1947年)は、アンティミスム(親密派)の画家と呼ばれています。「親密」という表現は、いかにもボナールにふさわしいものです。モティーフに対する親密な感情の表現を指しますが、おそらく、こうした感情をこれほど大切に描いた画家はボナール以外にはいなかったのではないでしょうか。彼にとって、慣れ親しんだ、ありふれた情景を一筆一筆描いていくことは、この上なく充実した仕事だったに違いありません。
 ボナールは友人たちと「ナビ派」を結成し、新しい絵画に取り組みましたが、次第に独自の世界を模索するようになります。彼は美しい色彩、光を求めてフランスを放浪しました。北はノルマンディー、南はサン・トロペと、彼のカンヴァスは次第に明るくなり、色彩に満ちていきました。
 しかし、1942年に2歳年下の妻マルトが71歳で先立つと、ボナールの心には大きな空洞ができてしまいました。それでも、制作への情熱だけはとどまることがありません。彼は混色を避けるために、絵の具を固くし、乾いた絵の具の上に重ねるという工夫をこらし、カンヴァスに色彩の花を咲かせていきました。そして、自らの絵がこのままに保たれ、未来の若い画家たちの上に、再び蝶のように舞い降りることを願っていたといいます。

 この作品は、ボナール最晩年の数点のうちの一点です。ル・カンネの別荘の庭で最も大きなこの木は、孤独な画家の心の支えだったのではないかという気がします。老画家は甥と姪の世話になりながら制作を続けましたが、体力が弱り、筆をとれなくなると、画面左下に澄んだ黄色を入れるようにと甥に頼みました。本来、そこには緑色が置かれ、彼の署名があったのですが、画家は最終的に、大好きな黄色を署名がわりにしたのです。
 白い花が咲きほこる、黒い幹の大きな木は、画面の奥から神秘的な光を放っているようです。それはボナールの心の輝きであり、老齢になっても全く衰えなかった絵画への愛であったに違いありません。そして、自らの見た世界の輝きを色彩の魔術で描きとめた、画家の姿そのものだったのかもしれません。

★★★★★★★
パリ、 国立近代美術館蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
        小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫著  小学館 (2004-12出版)
  ◎週刊美術館 14 ―ロートレック/ボナール
       小学館 (2000-05-16発行)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)

 



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