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「マギの旅」

ジェームズ・ティソ (1894年ころ)

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 マタイ福音書におけるメシア降誕の最初の証人は、東方の三博士でした。隊列を組み、砂漠を越えて進む三人のマギたちの威厳に満ちた姿は、おそらく実際もこのようであったに違いないと思わせるリアリティをもって見る者を納得させます。多くの画家が描いてきた、語り尽くされた感のあるテーマですが、ジェームズ・ティソのこの作品の新鮮さには、やはり目を見張る思いです。

 占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、言いました。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。私たちは東方でその方の星を見たので、拝みにきたのです」。
 博士たちのこの言葉がきっかけとなって、新約の世界は大きく動き始めます。博士たちの言葉は重く、ヘロデ王は大いなる不安を抱くのですが、そこには確かな理由がありました。当時の占星術は、今日でいうところの単なる星占いとは全く違うものだったのです。星の運行や月の満ち欠けなど、天文現象によって年間の気候や気象異常などを人々に知らしめ、さらに政変や天変地異までも予告するのがマギたちの仕事でした。そんな特別な存在である博士たちの証言ですから、ヘロデ王が内心穏やかでいられなくなったのも無理からぬことでした。
 ところで、通常「三人の博士」と言われていますが、実は正確な数はわかっていません。しかし、この作品を一般的に解釈すれば、向かって左が年若いメルキオール、中央が最年長のカスパール、そして右端が黒人のバルタザールではないかと思われます。通常、マギたちの旅には、ラクダ、ヒョウ、サラセンの三日月などが描き込まれ、彼らが東方から来たことをはっきりと表しています。そして、どこかとてもロマンティックです。しかし、ここに描かれているのは、非常に実証主義的な、まさに聖書の時代の旅人たちです。苦労しながら、命がけで砂漠を進む人々です。だからこそ、物語的な三博士を見慣れた目には、彼らの姿はとても新鮮なのです。

 ジェームズ・ティソ(1836-1902年)は、19世紀フランスで華麗な風俗画や肖像画を多く描いて人気を博した画家でした。彼の描く上流階級の婦人たちは、それはそれはチャーミングで美しく、決して見る者を裏切らない気品と優雅さを備えていました。
 そんなティソに転機が訪れたのは、1885年のことでした。サン・シュルピス聖堂で、キリストの幻影を見てしまったのです。それ以後、ティソの興味は完全に宗教画に向かい、しかも、歴史的な正確さを期すため、パレスチナに三度の旅行までしています。彼はその生涯の最後の16年間、宗教画に身を捧げたと言っても過言ではなく、聖書の挿絵にもその力量を発揮しました。
 この「マギの旅」も、実際に旅行した中東における取材をもとに、現地風俗を聖書の時代に即して再構成し、現実のマギたちの旅を私たちに再現してみせてくれているのです。

★★★★★★★
アメリカ、 ミネアポリス美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
       諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)



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