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「ネズミのいる食卓の宴」

ヤン・ステーン (1665-68年)

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 溜め息の出るような豪華なテーブルです。新興国オランダの繁栄と自信がそのまま形になったような、贅沢な食卓に圧倒されます。

 当時、有数の海運国であったオランダには、陶磁器や果物、花など、世界中から珍しい品々が運び込まれていました。オランダ市民にとって、それらは栄華の象徴だったと言えます。人々は、精緻な描写と輝くばかりの色彩によって貴重な食材や食器を絵画に再現し、所有することを望みました。
 そんなわけで、静物画は、17世紀オランダで一貫して人気のあるジャンルでした。ことに、アブラハム・ファン・ベイエレン(1620/21-1690 年)は、こうした豪華な作品を得意としていました。静物画の中でも、オブジェのように食材を盛ったタイプのものは、彼が初めて手掛けたジャンルだったのです。
 ファン・ベイエレンは、食材や食器のさまざまな質感を描き分けることに秀でた画家でした。当時の静物画家たちにとって、構図の技術と光の表現、そして物の質感の精緻な描写に習熟することは一番の重要事項でした。そして、こうした作品を購入できた豊かな市民は外国貿易に従事する人々であり、彼らの現実感覚が祖国の芸術の革新を支えたとも言えるのです。

 テーブルの上には、王侯貴族が使うような高価な金器、銀器、磁器、ガラス製品があふれています。もちろん、当時の一般市民が、いくら裕福とはいえ、こうした食器でいつも食事していたわけではないのでしょう。殆どが画家の想像の産物だったと考えたほうが自然かもしれません。金メッキのみごとなカップ、透明なゴブレット、顔まで映りそうな皿やみずみずしく剥かれた異国の果物、今にも動き出しそうなロブスターなど、この上ない贅沢ぶりがキラキラと描き出されています。
 ところが、よく見ると、銀の皿の縁を一匹のネズミが歩いています。これは、当時の静物画にしばしば描き込まれた「ヴァニタス」の一つなのです。「ヴァニタス」とは「はかなさ」を意味するラテン語で、この世に存在するものの「はかなさ」をさとす警句として用いられたのです。他に一般的なものでは、腐った果物、髑髏、時計などがよく描き込まれ、この世の営みのはかなさを表しているわけです。ですから、この小さなネズミは、豊かな大食、美食への警告であり、贅沢を慎みましょう、と諭す存在なのかもしれません。
 ただし、画面はあまりにも美しく圧倒的で、この世の富をこれでもか、と顕示しているわけです。ささやかな「ヴァニタス」など、しょせん、この度を超えた贅沢世界のちょっとした言い訳程度のもの、と考えたほうがいいのかもしれません。

★★★★★★★
ロサンゼルス、 カウンティ美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋名画の読み方〈1〉
       パトリック・デ・リンク著、神原正明監修、内藤憲吾訳  (大阪)創元社 (2007-06-10出版)
  ◎西洋美術館
        小学館 (1999-12-10出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)



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