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「シモネッタ・ヴェスプッチ」

ピエロ・ディ・コジモ  (1480年ころ)

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 麗しきシモネッタ、フィレンツェのマドンナ….。彼女の美しさに、どれほど多くの芸術家が触発され、その想像力を刺激され続けたことでしょうか。この作品は、多くの詩人や画家に「美しきシモネッタ」とうたわれた貴婦人シモネッタ・ヴェスプッチを、ピエロ・ディ・コジモが独自の発想から描き出した幻想的な肖像画です。
 シモネッタ・ヴェスプッチは、豪華王ロレンツォ・ディ・メディチの弟ジュリアーノの恋人と噂されながら、肺結核のために1476年、23歳の若さで世を去った絶世の美女です。彼女を描いた作品では、サンドロ・ボッティチェリの甘美な肖像画が有名ですが、こうした少し不思議な、そして魅惑的な作品もあるのです。

 横を向いて静かなシルエットを見せるシモネッタ….彼女の首にはネックレス….。しかし、長い舌を出してウネウネと動いている様子なのは毒を持っていそうな蛇です。私たちはまず、この首に巻き付く蛇の姿に、少しぎょっとします。これは、どうしたことでしょうか。
 しかし、よく考えてみたとき、この作品が制作された1480年頃には、もうすでにシモネッタは鬼籍の人です。ここにいるのはまさに、ピエロ・ディ・コジモのなかで永遠化されたシモネッタの姿と言えるのかも知れません。ピエロ・ディ・コジモは、美しい胸を毒蛇に噛ませて自殺した古代史に名高いエジプトの女王クレオパトラに、シモネッタをなぞらえて描いたのだと言われています。
 それにしても、すでに亡くなっているシモネッタ、そして彼女の首を飾る蛇……ということから受ける印象とは裏腹に、なんと晴れ晴れと透明感に満ちた画面なのでしょうか。一点の曇りも汚れも、また不安も感じさせない美しさ、遠くまで見晴るかす景色の、フランドル絵画を思わせる爽やかさ、そしてえもいわれぬ幻想性….。それに何より、シモネッタの表情のなんて明るく、すがすがしいことでしょうか。現代に再現しようと試みても、地毛だけではちょっと無理では…と思われるみごとなヘアスタイルと横顔のバランスの美しさには、女性ならずとも溜息が出てしまうのではないでしょうか。ここに私たちは、ピエロ・ディ・コジモという画家の並々ならぬ技量、センスの良さを見せつけられ、再認識させられるのです。

 ピエロ・ディ・コジモは、15世紀から16世紀初めのフィレンツェの画家です。資料が少なく、その経歴や生涯については謎の部分も多く、ヴァザーリによれば、人間嫌いで奇矯な性格の持ち主であったとも言われています。システィーナ礼拝堂の制作に携わったり、その実力を認められての活躍も多かったようですが、なぜかメディチ家とは疎遠で、公的な場での制作は少なく、私的な注文を多くこなしていたことも、経歴がいま一つハッキリしない理由のひとつかも知れません。
 しかし、彼の奇抜な想像力は、やがて訪れるマニエリスムの前哨とも言われ、その存在は後の多くの画家に影響を与えました。ピエロは、とても空想癖の強い人物だったのかも知れません。だからこそ、作品のなかに自身の夢のような内面世界を反映させることだけを喜びとして、俗世間のことには比較的無頓着だったのでは….という気がします。それがヴァザーリのような人物から見たとき、人間嫌い、奇矯な….といった評価になったかも知れません。

 シモネッタのあまりに はかない亡くなり方に胸を痛めたピエロ・ディ・コジモは、最期まで自らの意志を通したクレオパトラのイメージを重ねることで、シモネッタの魂を慰めようとしたのではないか、とふとそんな気もしてしまうのです。 

★★★★★★★
シャンティイ、 コンデ美術館 蔵



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