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「最後の晩餐」

アンドレア・デル・サルト (15126-27年)

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 この静かで美しいフレスコ画は、ルネサンスのフィレンツェで描かれた「最後の晩餐」の最後の傑作です。そして、1529 年にフィレンツェがスペイン軍に包囲されたとき、この壁画のあまりの美しさに感動したスペイン軍が破壊を思いとどまったということでも知られているのです。

 キリストを囲んだ使徒たちの表情やしぐさには品があり、それでいて豊かな感情がこめられています。決して激しい表現はありませんが、その場に漂う緊張感、そして戸惑い、怒り、疑惑、悲しみが、静かなさざ波のように見る者の心に打ち寄せてきます。そして、キリストと弟子たちとの会話は、彼らの上に写実的に開かれた三つの窓の向こうの空へ、様々な思いとともに、深呼吸するように広がっていくのです。

 作者のアンドレア・デル・サルト(1486-1531年)は、レオナルドやミケランジェロ、ラファエロといった同時代の巨匠たちから一歩陰に隠れた存在として扱われてきたように思います。しかし、彼は間違いなく、15世紀後半のフィレンツェの偉大な伝統を継承し、これを時間をかけて慎重に近代化した画家だったといえます。
 アンドレア・デル・サルトの魅力は、何といってもその優美で調和のとれた画風なのですが、それは、初期のころ、フィレンツェ派の画家ピエロ・ディ・コジモのもとで修業し、その後早々とフラ・バルトロメオやラファエロの神秘的で典雅な画風を吸収することによって我がものとしていました。ただし、絵画の近代化に力を注いだアンドレア・デル・サルトも、初期マニエリスムの持つ様式的な斬新さには踏み込もうとしなかったといいます。そこには、彼の古典絵画への強い思いがあったからなのでしょう。だからこそ、今でもフィレンツェにおける古典美術の代表者という位置づけが揺らぐことはないのです。

 この作品は、確かにレオナルドの『最後の晩餐』における構図を思い起こさせます。しかし、さらに目を引くのは、画家の色彩への探求と、それによって得られた澄明な境地ではないでしょうか。鮮やかで清らかな色彩表現の美しさには、目も心も洗われるようです。ここは、閉ざされた室内ではありません。明らかに外光が流れこみ、外の空気を十分に感じることのできる空間なのです。
 アンドレア・デル・サルトのこうした様式は、1520年代には特に熱烈な支持を受けていました。このフレスコ画は、まさにその絶頂期における画家の、偉大で忘れがたい一作なのです。

★★★★★★★
フィレンツェ、 サン・サルヴィ聖堂 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
       諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
       諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)



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