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フランソワ1世の肖像

ジャン・クルーエ (1535年ごろ)

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 穏やかな表情で、静かにこちらを見詰めるのはフランソワ1世。ヴァロワ朝第9代フランス王(在位1515-1547年)です。今では、フランス最初のルネサンス君主と言われています。
 1521年から44年のイタリア戦争では、カール5世の皇帝軍とイタリアの覇権を争って戦い、1525年のパヴィアの戦いでは、前線で指揮を執りながら捕虜となり、解放されるや、交わした条約は無効と宣言するなど、その精力的な対外政策やカリスマ性で王権の強化を図っていった人物でした。
 そんな、フランスをヨーロッパの中心的な存在に押し上げた王でしたが、美術ファンにとっては、レオナルド・ダ・ヴィンチと深い親交を持ったフランスの王様というイメージが強いかもしれません。度重なるイタリア遠征によって、イタリアの洗練された文化・芸術に憧れを持っていたフランソワ1世は、当時、64歳だったレオナルドを、フランスに丁重に招きました。
 ちなみに、このとき、レオナルドは非常に重要な作品を3点、携えていました。「モナ・リザ」「聖アンナと洗礼者ヨハネと聖母子」「バプテスマの聖ヨハネ」です。弟子のメルツィ、使用人のバティスタとともに、ロワールのアンポワーズ城に隣接したクルーの館に招かれたレオナルドは、ここで年金を受けながら、余生を過ごしたのです。レオナルドが人生で一番安らげたのは、おそらく、晩年のこの時期だったに違いありません。

 そんなイタリア・ルネサンスの信奉者であり、国民に最も愛された王と言われるフランソワ1世を、このように人間的な表情で描いた画家ジャン・クルーエ(1485/90-1541年)は、ルネサンス時代のアルプス以北においてホルバイン(子)と並ぶ最高の肖像画家とされた人物でした。
 ただし、ホルバインが輪郭線の描法に秀でていたのに対し、クルーエは人物の形態の肉付けに強い注意を払っていました。レオナルドの作品からの影響も認められると言われています。
 クルーエの描く肖像画は、まさに呼吸する肖像と評されています。その大きな特徴は、四分の三面観の半身形式であることです。そして、レオナルドの、非常に暗示的な描写様式を取り入れていることにも注目しなければなりません。

 クルーエは、フランス独自のマニエリスム美術の創成期を担った画家の一人でした。イタリア・マニエリスムとフランス流美意識の官能的な融合とも言うべきフォンテーヌブロー派は、まさにクーザン親子、そしてこのジャン・クルーエ、息子のフランソワ・クルーエたちによって開花したのです。それは、神話を主題として裸体の貴婦人が登場する、華麗な宮廷祭礼をほうふつとさせるもので、来たるべきフランス古典主義をも予告するものだったのです。
 16世紀フランスは、宗教改革の余波もあって、政治的には常に揺れ動いていたものの、フランソワ1世からアンリ4世に至る諸侯は、芸術家を厚く庇護しました。パリの南東にあるフォンテーヌブロー宮殿には、レオナルドの「モナ・リザ」をはじめ、ラファエロの「美しき女庭師」など、イタリア美術の輝くような名作の数々が飾られていたといいます。

★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館 蔵

<このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社(1989-06出版)
  ◎ルネサンス美術館
       石鍋真澄著  小学館(2008-07 出版)



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