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「白紙委任状」

ルネ・マグリット (1965年)

ジャンプ

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 見ているうちに、あれ?目がおかしくなっちゃったのかな?と思ってしまう不思議な作品です。
 女性の乗った馬の姿が途中で切れていたり、後景にあるはずの木が前面に飛び出していたり・・・。それなのに、少しも奇をてらった印象など感じさせない静かな美しい作品です。

 マグリットは、「目に見える事物が見えないこともある。誰かが馬に乗って森を通り抜ける場合、その馬と人物はときどき見え、ときどき見えなくなる。だが、そこにいることは察知できる。『白紙委任状』では、馬上の女性は樹木を隠し、樹木は馬上の女性を隠す。だが、わたしたちの思考は、見えるものと見えないものの両方を認める。思考を目に見えるものにするために、私は絵画を利用するのだ」と書いています。

 思考を目に見えるものにする・・・これはマグリットの生き方の中心に位置し続けた考え方だったと思います。物事の根本を探り、思想や哲学的見識を得るための手段として絵画を利用したマグリットは、ごくあたりまえの判断や感覚の前には閉ざされている絶対の神秘をごく無造作に引き出し、示す力を持った画家だったのです。
 彼にとって絵画は、彼の大好きな魔法を実現させてくれる唯一の手段だったわけですが、もっと重要だったのは、視覚からのみなる絵画という空間の中で、先入観もコンセプトも持たずに思考することだったかも知れません。そして思考の追求の不十分な部分を絵画で示し、思考を断念することのない方向性を示唆し続けたのではなかったでしょうか。

 目に見えるものと見えないもの、どちらも感知する能力を有する私たちの心の眼の前で、馬は軽やかに歩を進めていきます。

★★★★★★★
ワシントン ナショナルギャラリー蔵



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