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「燃える柴」

ニコラ・フロマン (1475―76年)


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 「燃える柴の三連祭壇画」の中央に位置する305×225㎝というこの大作は、「出エジプト記」3章が典拠となっています。
 義父の羊の群れを導いてホレブ山にやって来たモーセは、燃えているのに尽きることのない柴を発見します。不思議に思って近づくモーセに神が語りかけ、彼がエジプト人の手からイスラエル人を解放し、「ミルクと密の流れる地」カナンに導く運命にあることを告げます。愕然とするモーセ…。しかし、モーセはすぐに天の顕現に敬意を表し、イスラム教徒が聖なる土地で行うように履き物を脱いでいます。

 中世の教会においては、燃えているのになくならない柴は、処女懐胎した聖母マリアの象徴とされていました。炎を上げて燃えさかる柴の中央に座した聖母子は、北方系の画家フロマンらしいひそやかさ、親しみやすさです。そして、それを見上げて驚くモーセと彼に左手をかざす天使…。しかし、羊たちは何ごともなかったように緑の中に安らぎ、空気はあくまでも澄明です。
 聖母の無原罪信仰と結びつけるタイポロジーは、ネーデルラントからもたらされたものとされていますが、また、すでにビザンティン起源の表現法も存在すると言われ、正確な発祥はいまひとつ定かではありません。しかし、初期フランドルの精細で明晰な油彩技法と1400年代イタリアのごく合理的な空間表現は、この時期のアヴィニョン派と言われる画家たちの特徴をよく表していると言われています。

 ニコラ・フロマンは、15世紀後半にアヴィニョン周辺で活躍した画家です。しかし、出自はほとんど何もわかっていません。ただ、おそらく北フランスのピカルディで徒弟修行をし、ロヒール・ファン・デル・ワイデンの一派がいたブリュッセル、バウツのいたルーヴェンで北方様式を吸収したものと思われます。しかし、この作品の輝き、光と色彩の澄明さ、遠方の空気への鋭敏な感覚を見るとき、ヤン・ファン・エイクの影響も感じずにはいられないのです。

 ユダヤ民族の偉大な指導者、立法者モーセにとって人生の大きな分岐点となったこの出来事は、しかし、じつは本当に神秘的に、そしてひそやかにそっと、神の手によって行われたに違いありません。この「燃える柴の三連祭壇画」は、アンジュのルネ王に委嘱されたもので、現在も当時と変わらず、サン=ソヴール大聖堂の壁を静かに飾っているのです。

★★★★★★★
エクス=プロヴァンス、 サン=ソヴール教会 蔵



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